第20話 執筆に役立つ(かもしれない)辞典――「てにをは」、「擬音語・擬態語」、「類語」――

 小説らしき文章を書くようになると、どうしても通常の国語辞典だけでは調べきれないということに直面します。不明な点が出てきた時点でネット上で検索するのも一つの方法ですが、得られた検索結果は体系的でないことも多く、そこから相応しいものを探し出すのはそれなりに苦労します。何かよいものはないかということで、書店の辞典コーナーを見て回り、役立ちそうなものを幾つか購入しました。


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『てにをは辞典』/編:小内一/三省堂

『てにをは連想表現辞典』/編:小内一/三省堂


これらは語と語との結びつきに焦点を合わせた辞典です。通常の辞典では言葉の意味の説明に重点を置いており、用例についてはそれほど多く記載されていない傾向にあります。特に、片手で持てるような小型辞典ではその傾向が顕著です。上述の辞典は、作家の文章から用例を採集し分類したものです。どの語とどの語とが結びつきやすいかということが纏められています。


『てにをは辞典』では、或る言い回しを使おうとした際に、思い浮かんだものをそのまま使ってもよいものなのか、あるいは、異なる言い回しを使ったほうがよいものなのか、といったことを調べることができます。あくまで語と語との結びつきを載せているため、それらの意味については記載されていません。通常の国語辞典などの併用は必須です。


『てにをは連想表現辞典』では、書名のとおり、或る語についての各作家の表現を調べることができます。ある表現から連想される別の表現が掲載されており、類語辞典としての正確も併せ持っているようです。例文は作品から採ったものであるため、そのまま使うことはできませんが、参考になると思います。


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『擬音語・擬態語辞典』/編:山口仲美/講談社学術文庫


出版社によると、元は通常の版(『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』/編:山口仲美/講談社、二〇〇三年)だったものを文庫化したものとのこと。また、文庫化に際して俳句や短歌に関する部分が省かれているとのことですが、通常の使用ではあまり問題はなさそうです。


擬態語はまだよいと思うのですが、擬音語については使い方を誤ると作品の雰囲気を壊しかねません。可能であれば使わずに済ませたいというときに、この辞典が役立ちます。使おうとしていた擬音語の説明を基にして、描写するための文章を考え出せばよいからです。擬音語を極力使わないための辞典として活用できると思います。


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『新明解類語辞典』/編:中村明/三省堂


実のところ、あまり使用していません。類語に関してはネット上の類語辞典のほうがどうにも使いやすく、こちらの辞典を紐解くことはあまりありません。収録語数が多いのは嬉しいのですが、それぞれの語はカテゴリごとに分けられているため、カテゴリがわからないことには引くこともできません。五十音順の索引も当然のことながらありますが、或る語のことを調べるためには、索引でページ数を調べ、そのページに移動して説明および前後の語を確認する、といった二段階の手順が必要になるため、少々手間がかかります。先を急いでいるときには、この二段階の手順を煩わしく感じてしまうのが、本書をあまり使わない原因です。急いでいないときにはゆっくりと読むのですが。


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『現代語古語類語辞典』/編:芹生公男/三省堂

『現代語から古語を引く辞典』/序:金田一春彦、編:芹生公男/三省堂


二冊とも、少々風変わりな類語辞典です。『現代語古語類語辞典』のほうは、見出しの現代語に対する類語について、現代語、古語の両方が掲載されています。古語については、おおよその時代区分も付されています。或る語について少々古風な言い方を使いたい、或る登場人物には多少時代がかった台詞を話させたい、などのときに便利です。類語辞典ですので、語そのものの意味の説明については、ほとんど記載されていませんので、通常の国語辞典および通常の古語辞典との併用は必須です。場合によっては、古語については文法書も参照したほうがよいかもしれません。


『現代語から古語を引く辞典』のほうは書名のとおりです。ですが、対応する古語については時代区分の表記もなく、数も少なめですので、現代語に対応するであろう古語を調べるには、『現代語古語類語辞典』のほうが使いやすい、と感じました。『現代語から古語を引く辞典』は、どちらかというと「短歌や俳句をつくる人」向けの辞典とのことで、季語の一覧が掲載されています。季語が必要であればこちらのほうが役に立つかもしれません。


どちらも、読んでいるだけでおもしろく感じます。


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