第26話 原稿を見直すための幾つかの方法

 作成した原稿(テキストデータ)には誤りがつきものです。誤字、脱字、衍字、誤用、などなどが含まれているため、投稿前にこれらを正さなければなりません。出版物であれば、作者ではない第三者がこれらを確認するはずですが、趣味としてやっていくには作者自身で確認する必要があります。これが意外とたいへんです。手書きで下書き、下書きを見ながら入力、入力されたデータを見ながら修正、という手順を経る中で、どうしても誤りが紛れ込みます。以下は、試したものも含めて、入力されたデータを見直す方法の例です。方法の多くは原稿の見た目を変更するものです。

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  校正支援ツールを使用する

  表示フォントを変更する

  折り返し文字数を変更する

  横書き表示を縦書き表示に変更する

  異なる環境で原稿を表示する

  紙に印刷する

  信用できる知人などに依頼する

  音声読み上げソフトウェアを使用する

  音読する

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以下、各方法についての詳細です。



●校正支援ツールを使用する


 テキストエディタ上である程度の文章の入力を終えた時点で、校正支援ツールによる確認を行います。使用しているのは『一太郎』に搭載されている機能です。『一太郎』は約物にも対応すると謳っているため、確かに役立ちます。算用数字/漢数字、句読点の重複、など単純な誤りを正すには重宝します。


 ですが、文章の意味的な誤りとなると、当然のことながら、あまり役に立ちません。構文的な誤りについては「ある程度」検出できますが、意味的な誤りとなると、慣用句などの場合を除いて、あまり指摘されません。助詞の使い方に誤りがあったとしても、滅多に指摘されません。校正支援ツールによるチェックは、コンパイル時に於ける構文チェックのようなものである、とみなして、過信しないほうがよさそうです。



●表示フォントを変更する


 テキストエディタで原稿を表示するフォントとして普段は明朝体を使用しています。明朝体で表示すると(何となく)印刷物のように見えるということで、このフォントを使用しています。これをゴシック体などの他のフォントに変更すると、原稿から受ける印象が変わります。固い内容の文章だったとしても、ゴシック体で表示することで(何となく)柔らかい印象を受けるのは不思議なところです。フォントから受ける印象が変化するためか、誤りに気づくことがあります。ですが、確実な方法ではありません。



●折り返し文字数を変更する


 テキストエディタの表示画面にて、普段は 1 行当たり 50 文字または 42 文字で折り返すように設定しています。この設定を変更することで誤りに気づけることがあります。折り返し文字数が設定されていることにより、「この言葉はぎょうの中のこの位置にある」、ということが無意識の内に印象づけられているようです。その印象を変更することにより、誤りに気づくことを期待して、折り返し文字数を 1 行当たり 40 文字または 30 文字に設定することがよくあります。



●横書き表示を縦書き表示に変更する


 縦書き表示に変更すると出版物のように見えるためか、横書き表示では気づかなかったことに気づくことがあります。普段は、テキストエディタの表示画面を横書き表示に設定しています。下書きも横書きしているため、画面も横書きのほうが都合がよいためです。


 縦書き表示に設定すると、これまた印象が変わります。特に、読点(「、」)の位置については横書き表示と縦書き表示とで受ける印象がずいぶん異なるため、かなり修正することになります。横書き表示では「適切だろう」と思っていた読点が、縦書き表示では「多すぎる」となることが多く、かなり修正することになります(物語作品については縦書きを前提として読点を打つようにしています)。



●異なる環境で原稿を表示する


 テキストエディタの画面で読むのと、投稿サイトの編集画面で読むのとでは、これも画面から受ける印象が異なります。特に投稿サイトの編集画面に於いては、ルビがルビとして表示されるため、結果として折り返し位置がテキストエディタの画面とは異なります。これにより、ルビの設定誤りに気づくこともあります。


 また、禁則処理もテキストエディタの画面とは異なります。テキストエディタの画面では「追い出し」と「ぶら下げ」とを設定し、句読点や括弧類については折り返しの文字数よりも後ろに表示されるようにしています。原稿用紙の欄外に句読点や括弧類を書くイメージです。投稿サイトの画面では「ぶら下げ」が実装されていないため、一文字前から追い出されます。これにより折り返しが変化しますので、誤りに気づけることがあります。



●紙に印刷する


 原稿を確認するのであれば、紙に印刷する方法が確実だと思います。赤ペンを持ちながら、気になった部分に印をつけていくことができますので、現状とどのように修正すべきかとがはっきりわかります。


 欠点としては、紙であること、そのものです。紙媒体となると、検索機能はありません。置換もできません。紙に印刷するためには紙と、トナーまたはインクとが必要です。持ち運ぶとなればファイルに綴じる必要があるでしょうから、そのためのファイルや、ファイルに綴じるための下処理(穴開けなど)が必要となります。付箋も必要かもしれません(全ページに赤を入れることになるのであれば、不要かもしれません)。なにより、ページ数が多くなればなるほど紙そのもの枚数を必要とします。A4 用紙一枚当たりに文庫本 4 ページ分を印刷するとしても、物語が長ければ長いほど紙を消費します。幾度か試しましたが、A4 用紙 100 枚程度の量が紙に出力する限界だと感じました。そして、赤を入れた原稿を基にしてテキストデータを修正する際にさらに誤りを混入させてしまう可能性もあります。さらに困るのは、赤を入れた原稿の処分です。そのまま廃棄するのも気が引けます。現状は、ファイルに綴じたまま保管している状況です。



●信用できる知人などに依頼する


 実行していません。頼める知人がいるのであれば、第三者の目で確認するという点で、より確実だと思います。作者本人では気づけない点についての指摘を得られるかもしれません。私の場合は、周囲には(小説らしき)文章を書いていることを公言していないため、頼める知人もいません。



●音声読み上げソフトウェアを使用する


 実行していません。『一太郎』もエディションによっては読み上げソフトウェアが付属しているのですが、使用したことはありません。使用する勇気が出ないのです。



●音読する


 自分の書いた文章を音読することにより、誤りに気づけることがあります。この場合、気づけるのは主に、係り受けや文の捻れなどの構文的な誤りになります。もちろん、誤字などに気づける場合もあります。この方法の欠点は「家の外では実行しないほうがよい」ということです。おそらく周囲には独り言を言っているように見えるでしょう。気にする人もいるでしょうから、実行するのは家の中でのみにしています。



    ◇


 いずれの方法を採ったとしても(複数の方法を実行したとしても)、誤りをゼロにすることはできていません。投稿時には「これでよし」と思った原稿でも、後日(数日後、数週間後、あるいは、数ヶ月後、など)見直すと、思いもしなかった箇所に誤りを見つけることがあります。誤りをゼロにすることは不可能だとしても、可能な限り誤りをゼロにすることを目指す他になさそうです。

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