第3話 『「~~」●■は言った。』あるいは『「~~」と、●■は言った。』

 会話文の後に、誰の台詞かを明らかにする文を『伝達節』と呼ぶそうです。『伝達節』で使用される動詞は『言った。』に限らずいろいろありますが、最も多いのは『言った。』かと思います。


 書き方指南などでは、この『「~~」●■は言った。』を書くのはよろしくない、と書かれていることを目にすることが多い気がします。『口調などで書き分けろ』と書いてあることもあります。翻訳作品を読んでいると気にならないのですが、改めて手近にある本(翻訳作品)を何冊か見たところ、ほとんど全ての台詞に伝達節があるのを確認できました。


 『言った。』を書かない状態で誰の台詞であるかを明確に読者に伝えられれば、それはそれでよいと思うのですが、私にはその自信が無かったため、ほとんどの台詞に『伝達節』をつけました。その付け方も翻訳作品(海外作品)に倣って、会話の後に改行せずにつけました。字面としては非常にうるさくなりましたが、誰の台詞か判別できない状態よりはましだろうと思っています。


    ◇


 台詞の後にすぐに改行して次の行に動作などを書く、という方法もありますが――あるいは、逆に、動作を書いた後に改行して台詞を書くという方法もありますが――、そのような作品を読んだ際、私は、誰の動作についての記述なのかをうまく読み取れないことがあるのです。特に、Webサイトでよく見られるような、台詞の前後に空白行を挟む書式ですと、誰の台詞なのかを読み取るのに本当に苦労することがあります。以下、苦労して読み取った、とある作品での例です。


――――(ここから)――――

 Aについての描写


 「Aの台詞」

 「Bの台詞」


 Bについての描写


 情景の描写


 「Bの台詞」

 「Aの台詞」


 Aについての描写


 「Aの台詞」

 「Bの台詞」


 Aについての描写


(以下、省略)

――――(ここまで)――――


上述の例を読み取るまでに、画面を上下に数回スクロールしました。特に、台詞の順序が入れ替わるところが読み取るのに苦労した点でした。台詞だけを取り出した場合、「A→B→A→B→……」と交互に出現するのであればすんなりと読めるのですが、上述のように、「A→B→B→A→……」となっていると、「あれ、これは誰の台詞なのだ? Aだと思っていたが、Bなのか?」となり、何度も画面を行き来することになってしまうのです。上述の例は私が読み取ったものですので、もしかしたら、作者が意図されたものとは異なっているかもしれません。


 私自身が『伝達節』をつける描き方を採用しているのは、一つは、台詞の後ですぐ改行すると、自分で書いた作品であっても誰の台詞だったかわからなくなる可能性があるためです(全ての台詞に『伝達節』をつけるわけではありませんが)。もう一つは、もし、自分の作品が『口調を判別しづらい言語(英語など)』に翻訳されるとしたら、『伝達節』があるほうが誤訳される可能性が減る、ということを想像(妄想)したためです。



参考文献:


『物語論 基礎と応用』/著:橋本陽介/講談社選書メチエ


『日本語の謎を解く―最新言語学Q&A―』/著:橋本陽介/新潮選書


『日本人のための日本語文法入門』/著:原沢伊都夫/講談社現代新書


『英語の発想』/著:安西徹雄/ちくま学芸文庫

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