第4話 下書きについて
投稿する前に、原則として下書きをすることにしています。手書きです。始めから終わりまで……。手書きで下書きをしたのは、「PC上で書くよりも手書きのほうが筆が進んだから」、という何の面白みもない理由からでした。
あるとき、長編を書こうと思い立ち、設定などを考えた後、第一章を書こうとPCに向かったまではよかったのですが、なぜかさっぱり指が動きませんでした。初日は何とか書き進めたものの、自分ではとても満足できない内容でした。二日目、続きを書こうとPCに向かったものの、まったくと言ってよいほど指が動きませんでした。これではいかん、ということで、PCに向かうのを止めました。
PCから離れたところで、「何故、書き進められなかったのか」を少し考えてみました。考えついたのは「書いた傍から推敲していた」ということでした。以下が、この理由に至るまでの過程です。
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・PC上で文字を入力すると、活字の状態で画面に表示されます。
・表示用のフォントを明朝体に設定すると、曲がりなりにも印刷物のように見えてしまいます。
・印刷物のように見えてしまうと、印刷物にふさわしい文を書こうとしてしまいます。
・ですが、書き始めたばかりの段階の文章作成技術では、印刷物のような文章を書けません。
・そのため、現実と理想との大きな差に我慢がならず、文章を書いた傍から吟味することになり、先に進めません。
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それなりに納得する理由を得られましたので、「始めからPC上で書く」ということを諦めました。
始めからPC上で書くのを諦め、その後、何を使って書こうかと考えたところで出てきたのが、「ノートに手書きしてみたらどうだろう」という案でした。幸いというか、買い置きのノート(A五版、六ミリ幅、三〇枚綴り)が本棚に数冊ありましたので、これでいいや、と即決しました。
次はノートのページの使い方を考えました。全てのページに書いていくとすると、後になって見直したときに追記しようとしてもできません。そのため、見開きの右ページのみに下書きし、見開き左ページは、修正部分などをメモするための場所として残しておくことにしました。また、ノートそのものは横書きでしたが、右に九十度反転させて縦書きとして使用することにしました。「原稿用紙は縦書きだから下書きも縦書きでよいだろう」、という特に根拠も無い理由からでした。
ノートに書くのであれば、筆記具が必要になります。ボールペンでもよかったのですが、シャープペンシルを選択しました。特に根拠があったわけでもありません。敢えて言えば、書き心地が好みだったということくらいです。加えて、下敷きを購入しました。「硬筆習字用の柔らかい下敷き」です。
ノート、ペン、下敷きを準備できたところで、下書きを始めました。すると、PCの前で指が動かなかったのが嘘のように筆が進みました。「下書きを終えたら清書するのだから、何か変なところがあってもそのときに直せばいい」という思いから、気が楽になったのかもしれません。頭で考えた文章を書いていくのですが、手がもっと速く動けばと感じたくらいです(速記を勉強しておけばよかったとそのとき思いました)。
手書きで下書きを始めてから思い知ったのは、漢字を書けなくなっていた、ということでした。簡単な漢字さえ書けずにしばしば手が止まりました。ですが、いちいち調べるのも面倒です。書けない漢字については清書するときに漢字にすればいい、と割り切ることにし、ルビだけをふったような状態にして先に進みました(ノートを見返したら、一例として「爪」という漢字を書けず、ルビだけを書いたようにしている箇所があることに気づきました。今でも「爪(つめ)」と「瓜(うり)」とは、どちらがどちらだか迷うのですが……)。
さらに思い知ったのは、「普段、PC上で文章を作成するときは、取り敢えず思いついた文章を作って、後から切り貼りしていた」、ということでした。手書きでは切り貼りの手法を使えません。使おうとすれば、消しゴムなどで消した後に書き直す必要があります。下書きの際は消しゴムで消さないと決めていたので、切り貼りの手法を擬似的に再現するとなると、矢印を使用して文を繋げ直したり、それぞれの文の断片に番号をふったりという方法になります。ただ、それらも多用したとすると非常に見づらくなります。ですので、文章をある程度頭の中で考えてから書き記すことにしました。「考えてから書く」という、当然と言えば当然のことなのですが、手書きをする機会が減っていたため、当然のことをあまり行っていなかったと改めて認識した次第です。
手書きで下書きする利点として、物語の内容が頭の中にほぼ入る、というのがあります。文章を作成する際に、キーボードで入力するよりも手書きのほうが頭を使っているように感じます(これは個人差があるかもしれません。あくまで、個人的な感想です)。「ある場面で、ある登場人物が、どのような発言をしたか」のようなことが頭に入りますので、物語全体を通しての大きな矛盾は発生しないと思われます。また、紙(ノート)に書いているので、濡れて読めなくなるということは、まずありません。水性のボールペンを使用した場合はその限りではありませんが、油性のボールペンや鉛筆(シャープペンシル)を使用する限りは、紙を乾燥させれば読めるでしょう。また、外出しているときでも書くことを考えて、ペンホルダー付きのノートカバーも購入しました。ノート販売で大手の会社が販売しているノートカバーで、工夫すれば最大三冊を入れられるものです。さすがに三冊も入れると落とす心配がありましたので、製品の使用方法とは異なりますが、仕様どおりに二冊を入れるに留めました。
手書きの欠点としては、時間と手間がかかるということがあります。単位時間あたりに書ける文字数は、キーボード入力に比ぶべくもありません。一文字一文字、手で書いていくのですから、言わずもがなです。また、長編の場合はノートが複数冊になり、冊数分だけかさばるということがあります。ノートに含まれるページ数が少なければ、下書きに要する冊数が増えることになり、その分場所を取ることになります。別の欠点としては、検索機能は皆無に等しい、ということがあります。後になって修正箇所を探そうとしても、おおよそのページを覚えていたとしても、結局は周辺と思われる部分を読む必要があります。周辺部分を読んでいる内に別のことが気になり、初めの修正箇所を保留しておいて別の箇所を探す、などということもありました。その他の欠点として、ノート(六ミリ幅)に書いているが故に手書きの文字は小さいものになり、書いた直後の文字が手の下に隠れてしまう、ということがありました。右利きで縦書きですので、どうにも改善しようがなく、次の作品からはノートのに合わせて横書きで書こうと決めた次第です。右利きでの横書きであれば、書いた文字が手の下に隠れることもありません。小さな文字を書くことによって一行当たりの文字数を増やすことも可能ですので、ページ数の節約にもなります。以後、横書きで下書きをすることにしています。
マシンの中のデータは(PCの不具合などで)いつか破壊されるかもしれないという不安がつきまといます。定期的にバックアップを取得すればそれはよいのですが、今度はバックアップ先の媒体のことも心配する必要が出てきます。クラウド上での保管は、情報漏洩などセキュリティ面が心配です。心配しすぎかもしれませんが。結局、自分にとって最良の方法を模索するよりほかにないのかもしれません。
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