第13話 「語り手」について(二)
前回の『(一b)「語り手」は、何を、するのか?』についてでは、『「語り手」は、物語世界を知覚し、それらを誰かに伝えるために語ります。』としてみました。今回は、前半部分の『「語り手」は、物語世界を知覚する』について考えてみます。ここで、「知覚する」は「視る、聴く、嗅ぐ、味を感じる、触る、の五感のいずれかによって世界を認識する」という程度の意味で使用しています。今回も、5W (Who, What, When, Where, Why) の助けを借ります。
今回の話題は、番号をつけるとすると(一b)から派生しているので(一bの一)などとすべきところですが、さらに 5W のそれぞれの枝番号をつけていくと、(一bの一a)、(一bの一b)、……、となり、書いている本人もわからなくなってしまいますので、(二)としました。
(二)「語り手」は、物語世界を知覚する。
(二a)「語り手」は、誰を、知覚するのか?
「語り手」は、物語世界に存在する登場人物について知覚します。物語世界の外側については知覚しません(メタな作品については、本稿では扱いません)。これは、人称に依らず成り立つと思います。
一人称小説に於いて、「語り手」は登場人物の一人ですので、「語り手」が知覚するのは他の登場人物ということになります。「語り手」自身が物語世界で肉体を持つのであれば(感覚を持つのであれば)、「語り手」自身についても知覚するでしょう。ただし、その場合は、「どこそこが痛い」、「体調が優れない」など、内部からの知覚や、自身の目で視る範囲でのものとなります。「語り手」の目の届かない「語り手」自身の範囲については鏡などを使用する必要があります。
三人称小説に於いて、「語り手」が知覚するのは、原理的には物語世界に登場する全ての登場人物ということになります。「語り手」自身は、作中には存在しないため、物語世界のどこかに居る誰かについて知覚します。登場人物の外見について知覚するのは問題ありません。
(二b)「語り手」は、何を、知覚するのか?
「語り手」は、物語世界で発生する出来事(事象、event)を知覚します。物語世界の外側については知覚しません。これは人称に依らず成り立つと思います。
一人称小説に於いて、「語り手」が知覚するのは、登場人物の一人である「語り手」自身に起こった出来事、あるいは、「語り手」自身の周囲で起こった出来事の内、「語り手」自身が何らかの形で関与したもの、となります。「語り手」自身が知覚できる範囲内のもののみ、ということになり、遠く離れた地の出来事については、伝聞の形を取らざるを得ません。また、自身の内面も知覚の対象となります(心の内を視る、という点で)。
三人称小説に於いて、「語り手」が知覚するのは、原理的には物語世界での全ての出来事です。本当に全ての出来事を語るかは置いておくとして、「語り手」は全ての出来事を知覚できるでしょう。登場人物の内面(心理)について知覚するかについては、まだ保留とします。別の回で見ていこうと思います。
(二c)「語り手」は、いつを、知覚するのか?
「語り手」は、物語世界に於ける時間軸の、いずれかの時点を知覚します。これには、点とみなせるほどに短い時間間隔から、物語世界での年単位に渡る長い時間間隔まで、いずれの時間間隔であっても知覚するとしてもよいでしょう。
一人称小説に於いて、「語り手」が知覚するのは、その「語り手」にとっての物語過去から物語現在まで、といえると思います。一人称小説の「語り手」は、その「語り手」自身にとっての物語未来を知ることは不可能です。物語未来を語る場合は、推測や予想といった形を取らざるを得ません。また、「語り手」にとっての物語過去の起点は、「語り手」である登場人物が物語世界内に於いて外界を知覚できるほどの意識を持った時点、となります。そのような意識を持つ前の出来事は、伝聞という形で知覚することになります。
三人称小説に於いて、「語り手」は物語世界の時間軸からは独立した存在なのですから、どの時点でも知覚します。物語過去から物語現在、物語未来の順に知覚する必要はないともいえます。
(二d)「語り手」は、どこを、知覚するのか?
一人称小説に於いて、「語り手」が知覚するのは、目に見える範囲、あるいは、感覚の及ぶ範囲、となります。具体的には、「語り手」である登場人物が視るもの、聴くもの、などとなります。
三人称小説に於いて、「語り手」が知覚するのは、物語世界の全ての範囲となります。時間軸から独立した存在であるのと同様、空間的な制約からも独立した存在であるということがいえるでしょう。
(二e)「語り手」は、何故、知覚するのか?
「語り手」が物語世界を知覚しないことには、「語り手」は物語世界のことを語れません。物語世界を知覚しない「語り手」では、「語り手」の意味が無くなってしまいます。語り自体が「語り手」自身の妄想という形であっても、妄想を知覚したということにはなりますので(こじつけではありますが)。
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