第9話
大きなカエルくらいどうってことはないだろう。そうたかをくくってチャレンジしたクエストだったが、すぐさま何故ハンターたちがこのクエストを避けていたのか理解するに至った。
でかい
でかい
でか…
「おにいちゃーん!」
妹が鼻毛を出したまま僕の名を呼んだ。僕の体はカエルの体内に取り込まれ、あやうく巨大カエルの栄養分になるところであった。
イリヤの弓が間一髪のところで蛙の急所を刺したのである。
ぱっくりと開いた蛙の口から命からがら逃げ出すと、今度は蛙の消化液でみるみる防具が溶けていく。なんてこった!せっかくそろえた装備だったのに!
「引き返しましょう、とても三人では手に負えません」
イリヤがそう提案すると妹が「とりま一匹ぶんの報酬は出るよ!」そういって振り返った鼻からやっぱり鼻毛が出ていた。
すっかり慣れっこになったそれにもう突っ込む気力すら失せていた。
「なあサーシャ、この冒険が終わったらお前に大事な話をしなければならない」
「え?」
冒険が終わったら打ち明けよう。鼻毛神(今命名した)に誓って。
蛙の消化液まみれになった僕らは人が振り返るほど臭ったらしい、すぐさま風呂を浴び、クエストの報酬をもらった。命がけで戦って、防具を失った割りにはあわない少ない金額である。
「いわんこっちゃない」
手だれのハンターたちが帰ってきた僕らを笑った。
鎧がなくなるという事前情報があればチャレンジなんかしなかった。
「なんだかさんざんな結果になったようだな」
後ろから太い声が追いかけてくる。この声は見知った声だ。このあたりでも有名な百戦錬磨のパーティー「鷹の爪」のリーダーアレックスだ。
アレックスは全体的にひょろい僕らと違って筋肉隆々の逞しい男である。
いつも美女を連れていて、イリヤがあいつはいやらしい奴だなと文句を垂れるくらいにはうらやましい存在である。
「どうだうちのパーティーと組んでみないか、そんなしょぼい装備じゃぶちスライム一匹にすら苦戦するのではないか?」
助かる提案だったがこんな痴漢めいた女を連れているような奴とは行動を共にしたくない。
「せっかくですけどお断りします、私たち、大事な任務の途中ですから」
サーシャがきっぱり断った。
「可愛い顔して気の強い女だな、そんな優男の群れからこちらに移ってこないか?」
「お兄ちゃんとイリヤは私が守ります、あなたたちと関係を持つつもりはありませんので」
むき出しの敵意を向けている理由はあの裸同然の女たちをはべらせているからだろうなとすぐに察しがついた。
「デアゴ・オミーラ程度も倒せんお前らが世界を救うだなんて無理のある話だ」
アレックスは捨て台詞を吐いてお姉さんたちを連れて2階にあがってしまったらしい。
「いやらしい奴だ」
イリヤが気味悪そうにその様子を見て睨みつけている。
「断っても良かったよね、あんな奴お断りだわ。ねえお兄ちゃん、装備を買いなおしたらやっぱり引き返してレートの高いところに移動しましょ、それでレベルを上げるの、そしたらデアゴオミーラも倒せるくらいになれると思うの」
クエストが駆逐されている以上そうするしかない。
僕らは来た道を引き返し、レートの高い狩場へと移動することになった。
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