第28話
僕らは数々の強敵を倒し、どうにかパラッパッパーという効果音とともに妹のレベルが上がった音がした。レベル39。まだあと一つだ。メリッサは寝ている。イリアは薬草を数えている、番町皿屋敷みたいに一個足りないなどと言っていた。だれもあいつがサンタの袋を抱えていることをもう何も言わない、いっても無駄だ。相変わらず鼻毛は鼻毛が出ている。いつもと変わらない。とてつもなく水がまずい、物価が高いということを除けば、ここは案外住みやすい地帯だ。住む人たちにとってはそうではないかもしれないが。冒険者は感謝される僕たち魔王を倒すんですとイリアが住民に話すとそりゃあ喜んだ。あの鷹の爪のあいつらもそのつもりなのか、動機がよくわからない、僕の動機はこんな妹の姿をもう見るのがつらいということと、本当はもう死にたいだけなのかもしれなかった。いっそ殺してほしいとメンヘラまがいのことを言うと殺されそうなので黙っているだけで。魔王を目前として田舎に帰りたくなっていた。しょうもない芋煮をまた食べたい、学校にまた通いたい。ゴッグと世間話したい。しかしご神体に選ばれた身だ、弱音を吐くことも泣くこともできない引き返すなんてもってのほかだ。僕が弱気になっているとメリッサが近寄ってきていきなり腹に拳を当ててきた。
「……行きましょアレス
僕ははっとした、そうだ進まなくてはならないのだ。イリアが肩をたたく。サーシャが腕を組んでくる、僕にはもう仲間がいる、一人ではない。弱気になっている場合ではない。僕はすっかり長くなった髪の毛をしばりバンダナを巻いた。だけど生まれた暗い感情は気のせいではなかった。それもご神体からの呪い、もしや僕は前世で恐ろしい罪を犯し、その罪を償うために生まれ来てしまったのではないかと思えるほどの恐怖がこの先待ち受けているとは思いもしなかった。しばらく先の話になるのだが。
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