第29話

僕らは一生懸命強敵を倒す日々を過ごしていた。そんなある日サーシャがもてていた。村の青年、相手は特にこれといった特徴はなくまあ好青年だと思った程度だった。僕ほどのイケメンではない。すらっと高い身長が小柄なサーシャに思いを告げる、鼻毛さえ出てなければ美人のサーシャだ、もてるのは当然だ。なのに僕といったらイケメンのはずなのにモテない。いつだって来るものは拒まないのに。彼が振られるまでの間僕らはかたくなにその様子を見守っていた。かっこよかったのにとメリッサが話しかけると、今はそれどころじゃないからと固く決意を目に滲ませてサーシャが複雑な表情を見せる。目的意識のしっかりしたいい女だサーシャは。イリアは何も言わなかった。イリアがモテているのも何度も目撃している、流石エルフねと、そのアルビノめいたいでたちを褒められるのだが本人は複雑な様子だった。イリアが女にうつつをぬかす様子をまだ見たことがない。メリッサが以前彼はホモなのではなどといったことがあったがそんな性癖知ろうとも思わない。メリッサきた頃と違い随分喋るようになった。随分打ち解けた。でも僕と彼女との間にはまだまだ距離があってくだけた会話はまだしたことがなかった。ゴッグのような友達でもない、イリアとも。彼らは仲間だ。たぶん仲間と友達は違うものなのだ。そんなことを思っていると、イリアが話しかけた。


「サーシャさんに男ができると心配でしょうアレスさん」


「まさか」


僕はサーシャに保護者のような気持ちは持ち合わせていない。鼻毛が出てるのがつらいだけなのだ。これをなんとか羞恥とかいうらしいとは本屋で立ち読みして知っていた。また彼女は実の妹である、身内の恥だ、だからなんとしてでも魔王を倒したいのである。仲間…友達。そんなことを考えていて、ふいに言葉がでた。


「アレスでいいイリア」


「え?」


意外そうな声を漏らして、ふと考えていたようだった、仲間との距離を縮める。そんなことも考えなかった。魔王を目の前にして故郷のゴッグのような友達をまた求めているのかもしれなかった。今ではなぜそんなことを言ったのかはわからない。


「うん」


イリアはそれだけ言って笑った。

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