第30話
ファンファーレが鳴り響く、レベルが上がったのだ。メリッサはその腕を捲り上げた。あとはサーシャだけ。魔法使いはlevelが上がるのが遅い、イリアも僕もとっくにレベル40に到達していた。イリアは急に距離を縮めようとした僕に特に警戒することはなかったようだった。むしろ喜んでいた……?気のせいなのかもしれないが。
そういった話をメリッサにもしたかもしれない、最近どうかしている。死にたくなったり帰りたくなったりしている、仲間との距離感もわからなくなってきている。
「アレスどうかしたの」
ため語になったイリアが話しかける。
「なんでもないんだ最近どうかしているんだ」
不思議そうな顔をして小首をかしげイリアがはいとココアの入ったカップを渡した。
それをありがとうと言って受け取り糖分が入っているのならいくらかは飲めるここの水の感触を舌で確認する。牛乳も入っている、暖かい。
しばらくここにいたせいか僕にもファンがついたらしかった、村娘からサインをねだられることも多くなった。あの鷹の爪の連中は姿をみせない、不快な連中だから、会わないにこしたことはないのだけれど。僕らは大金を手にしたが物価が高くてトントンだった。酒場に張り出されいるクエストをクリアしなければ生活が苦しいだなんてことはなかったもののあまり裕福とは言えなかった。酒場でエールとつまみが食えるだけで十分じゃないのとサーシャが言うのだった。そういえばもう終わろうとしているのだ、このバカげた呪いは。かつて土地神から呪いを受けた僕は妹から鼻毛が見えるということになった。しょうもない、バカげた呪いだ。でもその呪いのせいで僕は日々心を痛め、鼻毛が見えるということで笑いを耐え、その苦しみから脱却すべくこの冒険の日々を過ごしてきたのだ。誰にも言えないこんなことで悩んでいることなんて。僕は小さな人間だ、勇者などではない。人から勇者と呼ばれようともそんな小さな勇気すらないのだから。たぶんそうなのだ、そうずっと思っていたのだ。だからこそそうなのだ。妹のレベルが上がった音がした。暗い感情が己を支配し自覚しつつあった頃また鷹の爪の連中と出会い、酒場で鉢合わせ、その揺らいでいる心を土地の神に見透かされるように、呪いは僕を苦しめ続ける。何の悩みもなくただ名誉のために魔王を倒そうという鷹の爪の奴らが心底羨ましかった。
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