第31話
レベル40に上がり、サーシャは魔法を習得した。転移魔法ロロルーラである。これで魔王城に侵入できる、そうしてもがき苦しむ僕はこれでようやく助かるのだ。クラっとした。最近フラフラするのである、よく眠れない。
「きっと魔王を目の前にして緊張しているんだよ」
イリアがそういって肩をたたく、そうだろうか、なんだかそれだけじゃない気がする。
「足を温めて寝るとよく眠れるよお兄ちゃん」
サーシャが鼻毛が出た状態で微笑む。悲しい。悲しい。この漠然とした喪失感の正体はなんなのだろう、ただの寝不足なのだろうか、だから悲観的になっているのだろうか。最近自分でもよくわからなくなっていた。前に進むのだ仲間がいると一旦思い込んだもののそれ以上の虚無が僕を襲うのである。もう助かるのだ、魔王を倒しさえすれば。いつものように眠れる。サーシャをみて笑うこともなくなる。そのはずだった。そうだそのはずだったのだ。
「……クマができてる」
メリッサが笑う。酒場にたむろした連中が鷹の爪の連中が帰ってきたと騒いでいた、それこそ襤褸のいでたちで。たしか奴らは僕らより先に魔王城に乗り込んでいたはずだ、どうだったんだよ!と周囲が尋ねると見ればわかるだろうと荷物を投げだし安っぽい椅子に座った。酒場はもう夜で飲みにくる連中でごった返している、お姉ちゃんたちは怪我をしていた。酒場にいた僧侶に手当をしてもらい、お姉ちゃんたちはあそこの城には今までと違い強敵がいるわとそれだけ言って倒れこんだ。おそらくマジビンボーみたいなかませ犬みたいなやつがわんさかいるに違いないともくろんでいたのだがそうではなさそうだった。
「僕らもいずれああなるのか」
イリアが薬草の袋を床に置いてテーブルに肘を置く、注文を取りに来たウエイトレスに牛乳でなどと答えていた。向かい合わせに座った僕に、イリアは運ばれてきた牛乳を飲みながら僕にじっと目を向ける。
「何か悩んでいるの」
「別に」
「嘘つき」
僕がなにか悩んでいることが知れ渡っている、あきらかに最近態度がおかしいのは自分でも気づいていた。妹の鼻毛が出てるから笑えるという状態でもない、きっと何かが狂ってきているのだ、魔王を目の前にして。
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