第3話
妹は手鏡と小一時間にらめっこし、何事もなく戻ってきた。
「なにもついていなかったよ」
嘘だ!妹の鼻からたわわに鼻毛が出ているのに!もしかするとこの鼻毛は、自分にしか見えていないのではないのか?すると僕は御神体から妹の鼻毛が出ているように見える呪いでもかけられてしまったのではないのか?悶々とし、頭を抱える僕を、無垢な妹は、
「変なお兄ちゃん」と一蹴してひらりひらりと山を下っていった。
もうどうしたらいいのだ。
宿につくまでの間僕の目から溢れんばかりの涙が滴り落ちていた。山ノ神だか海の神だか知らないが、なんという業を背負わせてくれたものなのだ。
僕らは黙って食事を取った。
向かい合わせになるとどうしても鼻毛が気になってしまう。
カウンターにすわり、黙って食事を取っていると、
「おにいちゃんそれ一口ちょうだい」といって妹が皿のウインナーにフォークを突き刺した。
見てはならないことはわかっている、だけど見てしまった、やはりまだ鼻毛がでている。僕は食べていたパスタをむせた。だけど店の主人も、他の客の誰一人として妹の鼻毛を笑うような奴は一人もいなかった。
やはりこの鼻毛が見えているのは僕だけなのだろうか、
誰かにそっと訊ねるのが近道なことはわかっていた、だけどそれができずにいた。
突然、後ろから声をかけられた。
「すいませんお嬢さん」
妹は振り返る、鼻毛を出したまま。
「何か用ですか?」
「1オンス落としましたよ」
エルフの男性は一瞬微笑んで立ち去っていった。
「いっけない!財布に穴が開いてるんだ!」
サーシャの1オンスはそこからこぼれたものだったらしい。
妹はすぐに繕い用の針と糸で穴をふさいだ。あのエルフは振り返っても笑わなかった、いや、もしかしたら気づかなかっただけかもしれない。
ああ、夢であってほしい。純真可憐な乙女の鼻から鼻毛が飛び出しているように見えることが!
でも、おきても何も状況は変わっていなかった、
こじんまりとした部屋には何もなくて、僕はうーんと背伸びをした。
相部屋である妹の寝姿を見ると、もう鼻毛はなくなっていた。
やはり妹の鼻毛は出したり引っ込めたり操作している人間がいるに違いない。
いるとすればあの御神体、神様本体ではないか。
僕は憤りを感じながら、次の目的地へのルートを確認していた。
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