第2話
御神体から聞こえたその声は地獄からかそれとも天国から響いてくるのかわからない迫力のある声であった。
御神体はシュウウという音を立てて人間の影のように形作り、僕に語りかけてきたのであった。
「選ばれし勇者よ、人の子よ、汝は旅立つ運命にあるこの妹と共に世界を救うのじゃ」
それだけを言い放って御神体は姿を消した。あとに残されたのはひのきのぼうと、何やら魔力をもったらしい妹の神々しい姿であった。しかし、僕だけだろうか、妹の鼻から鼻毛が飛び出ているのを見たのは。この光景はシュールでとても笑える状況ではなかった、誰か、「きみ鼻毛でてるよ」とでもあっさり言ってくれないだろうか!?
「おにいちゃん、私たち、旅だつ運命にあるの?」
純真な瞳で僕を見つめる妹の鼻から鼻毛が出ている。まだ恥らう乙女の年齢の妹である彼女に鼻毛が出てるよだなんて僕の口から言えるだろうか?
とりあえず鼻毛のことはおいておいて、僕はひのきのぼうを掴んで遠くの山を見渡した。
あくる朝、僕らは長老に呼び出され、世界を救う旅にでるように促されることになった。できるだけ見ないようにしていた妹の鼻の下の辺りには今日は何事もなかったようでほっとしたところであった。だけど、御神体がもたらしたものはこのひのきの棒一本のみである、どうやって世界を救えというのか。
多少憤りを覚えながら、僕と妹はその日を境にこの村を出て旅立つこととなったのである。少ない路銀を数えながら、僕らはこれから世界を救う旅にでる。
何の心強い防具も武器もない状態でいわば放り出される形で僕らはこのさき大丈夫なのだろうかと不安に思いつつも、魔力を手に入れた妹のおかげで途中出くわした ぶちスライムはなんとか退けることに成功していた。しかし、やはり気のせいなのであろうか?魔法を使った妹の鼻から鼻毛が出ている。ここは笑いながら、おい、お前鼻毛でてんぞと言ってあげるべきなのだろうか?
迷っているうちにいつの間にか妹の鼻から毛は姿を消していた。やはり思い過ごしだったに違いない。
まさか僕の妹の鼻毛が出ているなんて、本人もショックだろうし、やはり兄としてそんなことは指摘したくない。一人考え込んでいるとどうしたの?といわんばかりに妹が僕の顔を覗き込む、鼻毛が出た状態で。
僕は水筒の水を吹きこぼしそうになった。むせた僕を見て、妹はどうしたの?といって水浸しになったその辺をハンカチで拭き始めた。
心優しい子だ。
だから絶対にいえない。
「お前、鏡見て来い」
「何?何かついてる?」
僕にいえたのはここまでであった。
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