第26話
魔人を討伐したという噂は町中を駆け巡っていた。てんで弱かったあいつのことは知られていない。そんなことよりあいつにも見えていたのかもしれないということが気になっていた。勇者様御一行だ!と有名になるのも悪い気分はしなかったのだが、僕はそのことで頭がいっぱいだった。自分以外にも鼻毛が見えている奴がいる、それは安堵したようなそして怖いような不思議な気分にさせられていた。当然イケメンで優しいイリアはますますモテモテになり、黄色い悲鳴が通るたびに起こる、薬草投げしかしないくせに。そしていい気になってイリアはサインなどしてみせいてた、なんて奴だ。これは決して嫉妬などではない。勇者なのは僕なのに。美人のサーシャやメリッサにも人だかりができていた、美人には気おくれするのか男たちはおらずおばさんたちに囲まれていた。僕は子供には人気があった、勇者のお兄ちゃん一緒に写真を取って!と言われ、ピースサインをし一緒に写真をとる、本当に悪い気はしない。酒場の連中は良いきはしないのか、僕らを煙たがり、距離を取っている様子だった。騎士たちの連中だけが話しかけてきた。
「魔人を倒したそうですね」
「そうだけど?」
「その噂でもちきりですよちょっとした英雄ですね」
騎士たちはそう言ってその場をあとにした。
「モテモテなのね……イリアって」
メリッサがそう呟くとサーシャがそうねと言って笑った。僕だってモテモテだぞちびっこにはというと二人とも爆笑していた。笑わせるつもりはなかった、真実に違いない。二人を笑わせたところで町娘に囲まれているイリアを捕獲して次の目的地はどこなのかということを考えなければならなかった、酒場の連中はもう何も教えてくれなかった。
「あんたたち英雄じゃないか、あいつら嫉妬しているんだよ」
酒場のおじさんが気にするなといって酒をおごってくれる、それを全員でぐびぐび飲み干し次の情報を待つことにした。
「もうここいらには魔王軍の幹部はいやしねえ、次の大陸に渡ることだな、次の大陸の近くにある岩でできた島こそ魔王城のあるルベル島だ、もう引き返せねえ、あんたたちは魔王を倒すために旅をしていたんだろう」
「誰が引き返すもんか」
サーシャから鼻毛が見えるという地獄から解放されたい一心で旅を続けていた、思えばしょうもない旅だった。魔王城はもうすぐだ僕らの旅は終わる。そしてそのあとは……?僕は急に魔王を倒した後はどうするつもりなのかよくわからなくなってきた、本当に魔王が倒せるのかどうかはわからないがまたあのちんけな村に戻ってそしてどうするのだろう。いやそんなことは関係ない、今はサーシャのためにもいや僕のためにも魔王を倒すことだけを考えるのだ。そう意思を固め僕は二つ目のグラスを開けた、ハイボールは酔いがまわる、多少くらくらしながら寝床についた。
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