第35話
シュウウ僕らの前に黄金色をしたコガネムシ…いやゴキブリ…キリキリバッタ…?なんだかよくわからないが虫っぽいお面をかぶった奇怪な魔術師がたちはだかった。
「よくぞ来た吾輩は魔王!四天王を倒しよくぞここまでたどり着いた! 」
そう言って黒いマントを翻し、えいっと高いところから飛び降り足を痛めた。いい加減な魔王軍だった理由が一瞬にしてわかった。いっててと足をさすり、僕らの前に姿を現した。四天王は一匹しか倒していない。
「お前が魔王なのね!」
サーシャたちが戦いの前の言葉攻めを行っている間、僕はさっき鼻毛が妹に出ているとくちに出してしまって混乱していた、もしや僕にしか見えていなかったのかあの鼻毛は。さっきから魔王に魔法を打ち込むサーシャの鼻からは何も出ていない、そうだこれは幻だったのだとすべてを悟った瞬間から、すべての呪縛は解けていた。僕にもまだ勇気があったのだ、しかしこれはどういうことなのだ。あの時から、土地神から呪いを受けたあの時からずっと見えていた、僕にあるはずのないものが。呪いの正体、そもそも呪いなどはかけられていなかったのだ。僕は魔王を倒す理由を魔王を目の前にしてなくした。
鼻毛の仇!と叫んでオリハルコンの剣で魔王を横に斬ると魔王はこの気狂いめ!と叫んだ。いけなかったのだ、怠惰な気持ちでさびれた町の祭りなどに参加したことが。何もかもがいけなかったのだ。僕は土地の神をなめていたのだ、友達のゴッグのこともそんなさびれた村の貧相な祭りに対しても。そしてついに決定的になったのだ、魔王は僕を気狂いだと呼んだ。たぶんそうなのだ、僕はあの時から気が狂っていたのだ。鼻毛は幻覚だった、僕は……病気だった。
「お兄ちゃんしっかりして!」
眠れなかった頭でしっかりとしてと叫ぶサーシャの声が悲鳴のように聞こえた。バカげた呪いだと思っていた、バカだったのは自分だった。今は魔王を倒すだけだ、そうしたら町医者にでもかかって入院しよう。魔王のデオナズンをぼうっとしたらもろにくらった。イリアがすかさず回復呪文を投げる。ああ、お前、薬草投げは止めたんだな。アホだと馬鹿にしてすまなかった…などと辞世の句でも読みながらその時を待っていると魔王は第二形態へと変化していた。僕が悩み苦しんでいる間時間だけが過ぎ、魔王は変身を残していたのだ。そうして駆け寄ってきたメリッサの鼻から鼻毛が出ている。僕はぷっと笑った。狂気が僕を支配する。よく眠れなかったせいで悪化しているのだ。ついにサーシャ以外の人からも鼻毛が出てるように見えるようになったのだ。
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