第6話
ようやく頭痛から開放された僕は準備万端になり、はっと正気を取り戻すとそこには仲間になったばかりのイリアが僕の顔を覗いて微動だにしていなかった。
「心配したんですよ、奇妙なことをおっしゃるし、具合が悪そうにしてらっしゃるし」
ずっとイリアは心配そうに顔を覗き込んでいたらしい。じっと時計を見つめるとそこには短針が12を指した時計があった、いつから眠っていたのだろう、僕はぼうっとした頭で斜め方向を見つめた。そこには鼻毛の出たサーシャがいて、思わずうわっと言ってのけぞった僕を見て不思議そうに見つめていた。
「お兄ちゃん変」
さすがに唐突な鼻毛は僕の脳天を打ち砕く迫力のある代物であった。僕が何かに怯えていることをさすがにパーティーのメンバーも気づき始めているようだった。
「よかったですよ目覚められて。サーシャなんて一生目がこのまま覚めないんじゃないかって心配してたんですから」
「もう言わないで」
ぷんすかと怒ってエルフを殴りつける妹の鼻から鼻毛がでている。
起きぬけの鼻毛に対して僕は頬をつたう涙を隠せやしなかった、ポロリポロリと泣き出した僕をみて、二人の仲間は慌てふためいて僕を宥めはじめた。女子供でもあるまいし、僕にそのような哀れみや同情は不要だ。ただどうしようもないこの呪いのせいで僕はこうして人知れず泣くことしかできやしなかった。伝う涙を拭うこともせず、僕らは魔王を討伐にいく、ただただ無力な僕は、この状況を甘んじて受け入れなければならないこと、このような呪いを施した土地神のこと、様々な状況をただ憎み、そうっと出されたハンカチを跳ね除け、伝うあたたかい涙が、もうそろそろ夏がくることを示していた。
「お兄ちゃん、次の町までもうすぐだよ」
サーシャとイリアが仲間になり、僕らはだんだん迷宮の奥深くへと進んでいた。
出てくる敵の強さはだいたい初期の頃からして1・5倍にはなっている。
先日泣きはらした僕をみて二人とも僕に気を使っているようだったが、彼らはその涙のわけを知らない。一生誰にも知られなくていい、きっと魔王を倒した暁にはそんな馬鹿げた呪いなんて雲散霧消してしまうに違いないのだ。
今日のサーシャの鼻毛はくるりんぱとカールして、例のカーネルおじさんの髭的な芸術的な巻き方をしていた。鼻毛が出ていることの何が悪いのだ。と思えるくらいにはすっかり慣れっこになってしまった妹の鼻毛であった。
時々自問自答して、鬱になってしまうこと以外は何の問題もなくはなしは進んでいた。自分たちは遠くから魔王城が見える場所まで行き着くことに成功していた。あとどれくらい迂回してどれくらい強くなれば魔王を倒せるのであろうか。
そして魔王を倒せばこの忌まわしいのろいから開放されるのであろうか。
僕は魔王を討伐する、そして妹から鼻毛が見えるという呪いから解放されるのだ。
僕はギュっと拳を握りしめ汗ばむ季節になったその町の展望台から魔王城を見つめ必ず倒すと決心したのであった。
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