第5話

頭が痛い。昨夜の飲酒がたたって僕はこめかみを押さえた。完全に二日酔いだ。エルフの少年はまったく顔色が変わることもなく飲酒を続けていた、酒に強いのだろう。

名前なんだっけ?僕はえずいてトイレに駆け込んだ。昨夜イリヤと暴飲暴食したせいだ。


「お兄ちゃん大丈夫?」


背中をさする妹の手は暖かい。


「イリヤさんっていうんでしょあの人、昨日おにいちゃんを介抱してくれたのよ?お礼を言ってね」


妹は僕の背中をさすりながら彼が旅の仲間に加わったことをぽっつらぽっつら話はじめた。


「仲間が増えるなんて嬉しいね!仲良くやっていけるといいな、親切そうだったから大丈夫だと思うけど」


「お前の顔を見て何か含み笑いでもしなかったか?」


「ううん、始終笑顔だったけど特になにも言ってなかったよ、今年181歳になるんだって、妖精って凄いね」


笑っていたのはそのせいじゃないのか、僕は洗面台に駆け込み、じいっと顔を見つめた。そこに映っていたのは爽やかで顔色が真っ青な好青年である。

よく見ると目のしたにくまができている、僕は洗面所のタオルで顔をがさつに拭き、

再び覗き込んでみた。背後にうつる妹は相変わらず可愛らしい。鼻の下には何も映っていなかった。はっとして後ろを振り返ると妹の鼻から鼻毛がでている。

鏡に映らないということなのか!

僕は呆然とその状況を整理しはじめていた。


「こんにちは」


ひょっこりとイリアが顔を覗かせた。


「あ、イリアさん、お兄ちゃん調子が悪いみたいなの」


「昨晩かなり泥酔してらしたし……」


イリアの長い金髪が風に靡く。すっかり吐いて調子を取り戻しつつあった僕は彼にお礼を言った。


「いえ、そんなことよりもう動いて大丈夫ですか?」


「世話になったなイリアさん」


「イリアで結構ですよ」


そういって少年ははにかんで見せた。181歳ということでかなり達観しているようであった、そうして僕は思い切って彼に話を聞いてみることにした。


「サーシャさん?特に変わったことはなかったように思いますがどうして?」


逆に質問されてしまった。無垢な瞳でそう見つめられては、僕のほうが悪かったように感じられてしまう。


「いや、いいんだ、何も気にならなかったのであれば」


「?」


不思議そうな顔をしてイリアはしばし妹の顔を見つめていた。あのもんじゃらは鏡にも映らないし、他人の目にも見えていないことが分かった瞬間であった。

そうして僕が土地神からなんらかの呪いをかけられたことを完全に理解した瞬間であった。

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