第8話
ローラン国は四季がはっきりしている。春になれば蝶々が菜の花の蜜を採取し、夏になれば青空に積乱雲が張り出して雷になり、嵐がやってきて、秋になれば色とりどりの紅葉が行き交う人々の目を楽しませるのだ。僕は冬が嫌いだった。しかし嫌でも冬将軍の襲来はある、小雨がみぞれになっていて、あ、すっかり冬だねと妹がためいきをついた。ためいきは白く霧状になり、僕はぶるっと震え、パーカーを一枚多く羽織った。なぜかイリヤは半そでで仁王立ちをしている。
「イリヤ、寒くないの」
「エルフはもともと北国の生まれ、この程度の寒さなど」
ニヒルに笑った口元が凍りつく。
もしやアホかな。
「ねえお兄ちゃん。路銀を稼ぐためにもクエストをこなしていこうよ」
僕らは酒場に来ていた。今現在初期ボスであるデアゴオミーラに苦戦していて、そいつをやっつけられないからクエストが進まず、立ち往生しているから路銀が減っていくのである。その間に季節をひとつまたいでしまったのだ。このあたりの雑魚モンスターの見入りは他のところに比べても格段に悪く、もともと少なかった路銀はあっという間に底をついてしまった。
「いったん引き返して見入りのいいモンスターの出るあたりで狩りましょうか、それとも」
イリアが半裸のままで生真面目に口を開いたものだから妹はケラケラ笑い出した。
さて、どうするか。
酒場にはありとあらゆる困りごとが持ち込まれてくる。その依頼内容は千差万別だったができればできるだけ簡単で短時間で路銀を稼げるものがよい。しかし人は誰でも似たようなことを考えるものでそれらのクエストはとっくにハンターに駆逐されていた。少々危険だがやらねばなるまい。
「だいぶ遠回りになってしまったね」
妹が残念がって杖をつく。
魔王城は目の前だったが川を挟んだその先にあった。もちろん橋などとっくに壊されていて迂回するしかたどり着く方法はなかったのである。
どちらにしても今、初期ボスですら倒せない僕らには先の長い話であった。
「これなんかいいんじゃないですか」
イリヤが張り紙を指差す。色あせてボロボロになったその紙切れには湿地にたむろするオオガエルの退治と書いてある。
「いや、待てなんで誰も引き受けずに残っているんだ」
「ああ、その依頼はやめておいたほうがいいよ。湿地のカエルは巨大すぎるんだ」
通りすがりのハンターがそっと教えてくれた。
「誰もやらないなら俺がやってやろうか」
後ろから大男がその張り紙を見て呟く。
「いや!これは僕らがやります!」
慌ててその張り紙を破いて僕らは湿地へと勇み足で向かった。
こいつを倒せば一ヶ月は食える。さっさとこのクエストを終わらせて、強くなって初期ボスを倒すのだ。
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