第21話
次こそは中ボス……僕らにはそんな予感がしていた。僕らは潮の香りのする港町へとたどり着いていた。イリアがいい匂いがしますねと言った。お前は鼻もバカなのか。鼻毛とメリッサは泳ぎたいねなどと言いながら海を眺めている。泳いでいる場合なのか。熱々になった砂が足にまとわりつく、僕らは宿屋を探し当て、次のボスの情報を集めることにした。しかし、エンドラのように情報がすぐに出てこない、誰も何も知らないのである。宿屋の親父は髭を触りながら、とんと最近冒険者を見ないから宿屋の経営も大変なんだよと漏らした。塩の香りは宿屋にいても鼻につく、汚れた土の臭いと混じって、悪臭が漂っていた。
「こんなところ早く出たいね」
髪をすぎながらサーシャが言った、お前は今日も鼻毛が出ているぞ。
「……眠い」
確かメリッサが起きてきたのは今朝の十時である、本当に寝てばかりいる。イリアは薬草を数えていた。少なくなってきたので買い足してきますというので全員で止めた、さて情報がない以上次はどこへ向かったらいいのかまるでわからない。せめて職場放棄したエンドラがなにかヒントを残しておいてくれたらよかったのだが。
「暇だし泳ぎに行きましょうよ!」
サーシャがそう言うと、賛成と言って三人は喜び勇んで海に出かけて行った、浮き輪やボートなどもどこかでレンタルしてきたのか、またなぜ水着を持っているのかよくわからない。やれやれ浮かれた奴らだ。僕も一人きりではすこし寂しい。気が乗らないが渋々ついていくことにした。メリッサとサーシャはお揃いのセパレートの水着で、イリアは普通の海パンを履いている。よくもまあこんな臭い海に入れるものだ。
僕は木陰で観察しながらスイカなどを齧っていた。あまり日に焼けたくない。
「アレスさんも泳ぎましょうよ!」
イリアが引っ張り出そうとする。僕は面倒なことはごめんだ。ここでスイカでも齧っているといって怒ると、何を怒っているんですかとイリアが不思議そうな顔をする。
水着のサーシャの鼻からやっぱり鼻毛が出ている、あの鼻毛をみるたび僕の心はキュウっと締め付けられるように痛むのであった。無邪気なサーシャがそんな真実に気づいたら死んでしまうかもしれない……いつもそんなことを思ってしまう、だから早くボスを倒してその呪いから解放されたい。スイカの匂いは海の匂いと混じって奇妙な、でもみずみずしい匂いを放っていた。どこからか焼きそばや烏賊を焼く匂いもする、海に来ているのだな、シーズンに。等と思うなどしていた。サーシャのためにもいや僕のためにも早く魔王を倒したい。僕は木陰の中で意思を固めていた。
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