第5話占い師

「人探し? お前のような子供に何故?」

「それに結婚という話も……」

「とんだ変態じゃないか」


 三人の男達は唖然と目の前の少女を見つめた。

 どう見ても三歳か四歳の子供だ。


 容姿は可憐で美しく愛らしい。こんな子供に結婚を強いるなど重度の変態だ。


「私、占い師だから」

「占い師?」


 蒼子は鳳の言葉に大きく頷く。


「だから婚姻と引き換えに依頼人の息子を捜し出す事にした。私はまだ結婚なんてしたくない」


 気の毒な話だ。


 こんな小さな子供を捕まえて一体何をしようとゆうのか。

 結婚は少なくとも十年は必要だろうし、第一に子供を産める身体ではないだろう。

 むしろそれがよくてこんな子供を選んだのかも知れない。


 何にせよとんでもない輩がいたものだ。

 人探しだろうが何でもしたくなるだろう。


「お礼に何か利益になりそうな事を占う」

「何だ、占ってくれるのか?」

「はい。何を知りたい?」

「何でも構わない」

「何でもって……はっきりして。困る」

「なら、良いか?」


 鳳の代わりに椋が身を乗り出す。


「この店では女性向けの商品を取り扱っているんだが、客層によって流行や傾向を探るのは男では限界がある。そこでどんな商品がどんな層に売れるのか、これからの流行を知りたい」


 そう述べた椋の脇腹に鳳の肘が食い込む。


「お前は……」

「何でもって言うから……」

「具体的だな。よろしい」


 その言葉に鳳と椋は目を見開く。


「蒼子さん、無理しなくても良いんですよ」

「別に無理じゃない。柊さん、皿に水を張って持って来て下さい」


 すぐに柊が皿に水を張り持ってくる。


 鳳と椋の前には皿の代わりにお茶が置かれた。

 目の前に置かれた皿の水の波紋を少女は見つめている。


 椅子に座ったままでは卓の皿が見えないので椅子の上に立ち皿を覗き込んでいる状態だ。


 ちまっとした様子がとても子供らしい。


「香水……花の香の香水が売れる。それと、小物。真珠と小さく綺麗な石を使った装飾品が裕福層に売れる。小さな石が光る上品な物が上質な男に受ける」


 淡々と皿の水を見て話す蒼子にみんなが目を瞬かせる。


「香水? 香油では駄目か?」


 唖然とする鳳と柊を横に一人だけ興味深々で質問する。


「香油が駄目だって訳じゃない。勿論香油の需要はある。けど香水の方が安価で幅広い層で売れる。香油は香りもあって肌に艶が出る。夜はかなり使える。でも舐めたり咬んだりすると苦い」


「「「ぶっ」」」


 蒼子の言葉でお茶を盛大に噴き出す。


「汚いんだけど」


 幼い少女とは思えない大胆な発言に三人は言葉を失う。


「けど香水なら肌だけじゃない、服にも手拭いにも小物にも使える。襟首と胸元に香りを仕込む。体温で匂い立つよな芳香に変わる。最初は遊女に広げる」


「……何故、遊女なんだ?」


「男を引っかけるのが上手い。意中の男を落とす為なら女は何でも使う生き物。遊女だと蔑んでも、その男を引っかける小技は得たいと思うもの。遊女から広めて裕福層が欲しがる。裕福層が欲しがる物は庶民も手にしたがる。もともと香油より安価だから問題なく売れる。二日後に来る商船が積んでいる。少しは押さえた方が良い」


「なるほど……検討しよう。香りは花が良いのか?」

「好みがある……けど花の香が一番売れる」

「装飾品は首飾りが良いか?」

「首飾りと耳飾り、揃えた物が売れる。統一感があって華奢で可憐な女が男にウケる」

「色はどうだ?」

「白。ただ幅広く取り入れるのが一番」


 茫然とする鳳と柊を余所に蒼子と椋は利益に繋がる会話を重ねている。


 鳳も柊も貴方は幸せになれますよ、と子供の占いごっこのようなものを想像していた。


 しかし、口から飛び出てくるやけに具体的で生々しい言葉の数々に鳳達は言葉を失う。

 話し方も内容も子供らしさを全く感じない。


「本当か?」


 たまらず鳳が訊ねる。


「嘘はない……んっ……」


 小さい口を開けて欠伸をして目元をごしごしと擦る。


「眠いのか?」


 こくりと蒼子が頷く。


 瞼がとろんと重たそうで、その様子は先程とは違い幼子のものだ。

 そのまま力尽きたように椅子に座り、小さな手足を投げ出して寝息を立て始めた。


「……何者なんでしょう」

「適当に話しているだけかも知れんぞ」

「……二日後の商船が来るまで泊める事にする」


 鳳は立ち上がり小さな身体を抱き上げた。


「嘘だったらどうするんだ?」

「……そう言う割にはしっかりと話しを聞いていたな、お前は」

「遊女から広めるという発想はなかったもので」

「嘘でも本当でも泊めてあげるという事で良いですか、鳳様?」


口元に妖しい笑みを浮かべて蒼子を抱えて部屋を出て行く。


「……気に入ったんですね」

「みたいだな。普通の女に飽きたのか?」

「そのうち帰したくないとか言い出すんじゃ」

「あり得るな。人探しも手伝う流れだな」

「けれど力は入れませんね」

「見つからなくても構わないからな、きっと」

「あの顔、楽しい玩具を見つけたって感じでしたね」

「しばらくは楽しむだろうな」



「「……幼女趣味……?」」



 二人の声が重なる。


 双子は顔を突き合わせて主人の行く末が不安で仕方なかった。



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