第20話仲間との再会

 この気配、間違いない。


 蒼子は確信していた。この近く、すぐ側に仲間が来ていることを。


 日が高くなり、町に人が出ている時間帯に加えて今の蒼子の背丈では人探しの難易度がとてつもなく高い。


 しかし、蒼子は気配のする方向へと足を進める。


 小さな足での一歩は小さく、気持ちばかり先を行くのに対してあまり進めていないのが口惜しい。


 高い人の壁を縫うように進み、大きな通りから細い道へと出る。


 建物の壁と壁で出来た細い道だ。

 日が届かずに陰った通路を冷たく、涼し気な風が細く吹き抜ける。


 心地良い冷たさの風は自分を導く糸のように通路を吹き抜けて蒼子を誘い出した。

 影っていた通路を抜けると眩しい日差しが蒼子に降り注ぎ、目を暗ませる。


「蒼子様!」


 その声に振り向くと視界に飛び込んで来たのはずっと到着を待っていた仲間の姿だ。


「おい! 待て! 何処へ行く気だ!」


 苛立ったような声を上げたのは蒼子の後を追って来た鳳である。


 建物の合間から叫んだせいで鳳の声は響いた。

 蒼子が足を止めたのを見て、鳳も歩調を緩めた。


「いや、今あそこに……」


 仲間がいると説明しようとした時だった。


「へ?」


 突如視界が黒で染められ、光を失った。


「蒼子!」

「何⁉」


 身体を何かに押さえ付けれてしまい、蒼子は身動きが取れない。


 人攫いか⁉


 肌に触れるのは埃臭い布袋のようなものなのかもしれない。

 布の生地は厚く、全く光が入り込まず、視界は闇で覆われた。


 蒼子は手探りで布に触れるが袋の口と思われる部分は硬く閉ざされている。

 そして規則的に伝わる振動から察するに、蒼子を抱えて走っている。


 マズい! どうしよう!


 このままでは連れて行かれてしまう、そう思い袋の中で抵抗してみるが状況は変わらない。


 しかも移動速度がかなり速いような気がする。


 マズい、このままではやっと会えた仲間とも鳳とも引き離されてしまう。

 大きな不安の波が蒼子の胸に押し寄せた。


 その時だった。


「止まれ!」


 まるで咆哮のような声が発せられた。


 怒りと焦燥の混ざり合うその声は聞き馴染んだ鳳の声だとすぐに理解した。

 喧噪を切り裂くような鋭い声に一瞬、身体が縛り付けられるような感覚を覚えた。


 身じろぎも出来ず、呼吸も出来ず、心臓の脈まで止まってしまったかのように、世界の流れが一瞬だけ止まったかのようだった。


「ぐあっ!」


 呻き声と同時に、蒼子の身体にも衝撃がきた。


 身体受けた衝撃と共に、宙に浮遊するような感覚を受けて、自分が人攫いの手から解放されて放り出されたことを悟る。


 落ちる! 地面に!


 とりあえず頭を庇うように衝撃に備えた。


 しかし想像していた衝撃ではなく、温かい何かを自分が入れられた布越しに感じた。


「蒼子様!」


 その声に蒼子の胸から不安が消え去る。


 そして眩しい光に一瞬、目を暗ませながらも、声の主である青年を視界に捕えた。


「紅玉!」

「蒼子様!」


 優しい手つきで乱れた蒼子の髪を整えて、そのまま蒼子の顔を包み込んだ。


 紅玉のような美しい瞳には不安と安堵、さまざまな感情が揺れ動いて見える。相当、心配をかけたらしい。


「ごめん、心配かけて」

「本当ですよ」


そう言いながら蒼子を胸の中に抱き締めた。

声には怒りも含んでいて後で説教ですと耳元でぼやかれる。


「無事で良かったっ……」


 少しばかり苦しいが仕方ない。

 慣れ親しんだその腕の温もりを感じることができて蒼子は心底嬉しかった。


 が、何だか不穏な空気を感じ、蒼子は身じろぐ。


「取り込み中失礼するが、娘が窒息しては困る」


 乱れた息を整えた鳳の声を聞き、蒼子は解放された。


 自分を必死に追いかけて来たであろう鳳が立っている。

 蒼子はふわりと抱き上げられ、青年の腕に収まる。


「……貴方は?」

「紅玉、この人は大丈夫よ」


 鳳を睨み付けて警戒する紅玉に蒼子は言う。


「鳳様、この子は紅玉。私の兄弟」

「お前が待っていた仲間か……」


「紅玉、この人は商人の琳鳳さん。私を保護してくれた恩人。だからそんなに警戒しなくても大丈夫よ」


「貴方が彼女の保護を……」


 蒼子の紹介で一旦、互いの警戒心を解いた。

 そのように蒼子は思えた。


 しかし何故だろうか……。どうにも空気が悪いままな気がするのは。


 無言で互いを見つめる鳳と紅玉に蒼子は首を傾げた。


「ねぇ、私のことも忘れないでよねぇ~」


 男の声だが女のような口調が特徴のもう一人の仲間である柘榴が人攫いの襟首を掴んで引き摺りながらこちらに向かって手を振っている。


 何だかピリピリした空気を何とかして欲しくて蒼子は柘榴を手招きで呼び寄せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る