第22話 別室にて

「あの二人、大丈夫かしら?」


 蒼子は今にも落ちそうな瞼を擦りながら柘榴に問い掛けた。

 何となく、あの二人は相性が良くないような気がするのだ。


「さっきの柊さんがいれば大丈夫じゃないかしら?」


 柘榴は寝台に横になった蒼子に布団を掛けて、そのまま隣に寝転んだ。


「ありがとね。疲れたでしょ?」


 ここまで自分を探しに来てくれたことに対して蒼子は改めて礼を述べた。

 自分を指し示す羅針盤があったとしても容易ではなかったはずだ。


「ほんとよ~ でも無事で良かったわ」


 ツンっと指先で頬を突かれた。


「報告ですが、道中で何者かの襲撃を三度受けました。私も紅玉も怪我はありませんでしたが……本気で殺しに来てます。ここに居座り続けるのは危険かと」


「何ですって?」


 柘榴の言葉に蒼子は飛び起きる。眠気も吹き飛んでしまった。


「恐らくですが、自分の娘や孫娘を皇族の妃にと考えている老害共の仕業かと。母君の牽制で大人しくしている者もいるようですが、城から離れている今が好機と考える者も多いでしょう」


「皇族の妃の座なんて欲しい奴がもらえばいいのに」


「第二皇子は世間では時期皇帝に最も近いと言われる方です。その方が妃にと望む貴女を放っては置かないでしょう」


「あれはそういうのじゃないんだって……もう」


 失踪した皇族探し、皇族の妃を狙う者達からの刺客、人攫いに遭って、天功と竜神とこの町の水不足……。


 頭が痛くなってきたわ。


「人攫いと刺客は関係ないわよね?」


「恐らく。王都からの刺客なら貴女を殺すかと……。そもそもほとんど神殿から出ない貴女の姿を刺客は知らないのではないかと。刺客どころか雇い主も私と紅玉の情報は持っていても、貴女の情報はほぼないはずですし」


 可愛いからでは? 


 攫われかけた理由を柘榴は一言で片づけた。


「本当にそうかしら?」


 蒼子は短い腕を組んで首を傾げる。

 そんな姿も柘榴から見てば愛らしいものだった。


「何か気になることでも?」

「気になることは一杯あるんだけど……」


 ただの人攫いじゃない気がするんだよね……。


 眉間にしわを寄せて唸る蒼子を柘榴は優しく横に寝せた。


「気になることは調べましょう。でも、とりあえずひと眠りした方が良いですわ」


 そう言って柘榴は蒼子の身体に布団を掛け直した。


「でも、気になることが多すぎて……」


「ちゃんと調べますわ。でも、今は身体を休めなくては。神力がほとんど残っていないではないですか」


「この辺りに神力を得られる水がなくてね」


 蒼子の神力は柘榴の言う通り、今はほとんど残っていない。使い過ぎた身体は充分に回復できないままで、日に日に起きているのが辛くなってきてしまった。


「天功様のお住まいの近くにある水なら神力も回復できそうです。明日にでも参りましょう」


 蒼子はこくりと頷く。


 一度は去った睡魔が再び蒼子の元へ降りて来た。


「おやすみなさいませ。我らが神女」


 聞き馴染んだ声を最後に、安心して蒼子は意識を手放した。

 


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