FCQの商人
ファンタジー世界を歩いて散歩するだけでも面白いのがVRゲームにハマる1つの理由だと思う。
そんなことを改めて考えて風景を見る余裕がある程度には安全なルートの護衛をしている。初心者が使うルートであり半年プレイしている俺の今使っている戦士クラスのレベルを考えれば1人でも十分なのだ。
そもそもゲームで町や拠点は転移できないのかという疑問が浮かぶことも昔はあった。だが、それはこのゲームの商人に課せられる特徴的システムが関係している。FCQでは転移クリスタルというものが存在しているものの『1キャラずつ』しか転移できない。
ここで重要になるのが商人のシステムだ。商人はその名前の通り交易などを行うことができて露天を開くことも可能なクラスになる。だが、多くの荷物を運ぶ必要がでてくれば自ずとそれ相応の鞄や荷車が必要になってくる。
そう、この荷車は転移が不可能な扱いとなっているのだ。結果的に商人はプレイヤーの友だちを作ったり護衛を引き受けると言っている戦闘キャラクターに依頼をして移動を行う必要が出てくる。
まあ例外だったり商人のシステムには他にも面白いものがあるがそれはまたいずれ思い返そう。
ファンタジーらしいと言えるような草原を眺めながら歩いているといつのまにか次の街である『水の都・リヴァイアス』が視界に入ってきた。数分後には門を通って荷車も十分に通れるリヴァイアスの大通りにたどり着いた。
このリヴァイアスは初心者が始まりの町とも言える場所からチュートリアルを終えてこのゲームに慣れてきてから最初の拠点となる大都市になる。名前の通り街のそこかしこには水路が通っていて、中心の【アクア・ロード】では大水路でゴンドラに乗ることができたりする。たまにカップルプレイヤーがのってイチャイチャしていたりして爆発しろと言わんばかりにアイテム調合している錬金術師も観光ポイントだ。
「そんじゃ、ちょっくらいってくるから30分後に西門集合でよろしく」
大通りの中の露天が立ち並ぶ場所が近づくとガルドはそう言って商売しに街へ消えていく。30分後に西門集合というのはその後に西にある街へいくのが今日のプレイ予定だからだ。だからこそ俺もログアウトもできなければこの街からも離れにくい。
だが、先程も言ったとおりこの拠点は長い間使う。つまりプレイ時間が長くなってくるともはや実家のような感覚で今更何を街で楽しめばいいかわからなくなってくるのだ。
ゴンドラも開始当初は1人で乗ってても毎回楽しかったが、最近では1人だと悲しくなってくるスポットだからな。かといって消耗品も補充したばかりでさっきも使ってないからどうするか。
そうは言いつつも特にやることもないため、アクア・ロードにやってきてしまう。なぜかといえばやることがない中で人混みに飲まれるくらいならアクア・ロードは意外と人が空いている場所もある。そこに座ってぼーっと水路を走るゴンドラを眺めるほうが精神的には一番楽だからだ。つまり人混みが苦手である。
アクア・ロードを眺めはじめて数十分、いろいろな人がいることを改めて実感する。
フルフェイス装備をしている顔もわからない騎士的な人もいれば、防具をまったくつけてないようなグラップラーの人も見える。生産職も装飾品などを作ってる人と鍛冶師では風貌が全く違って見えるから面白い。もちろんすべてが見た目通りということはないだろうけど。
そんな時だった。周りをキョロキョロとする女子PCの集団がアクア・ロードにかかる橋を渡ってくるのが見える。
このゲームでは基本的に人型キャラでのプレイになっていてエルフやケモミミレベルは可能だが、完全に顔がドラゴンになるなどはまだ実装されていない。そして、多くの人はリアルの顔に多少編集した程度で済ませているだろう。
何がいいたいかといえば橋を渡ってくるPCの集団が初心者で装備も薄く顔が丸見えな結果、知り合いにしか見えないということだ。いくら話さないとはいえクラスメイトの顔ぐらいはさすがに覚えてる。
俺は何故か咄嗟にフルフェイスのヘルムをアイテム欄から出してかぶった。いや、橋を渡ってから見た感じなにもない道に来ない限り出会いはしない位置で水路を見ていたけど、反射的行動だから仕方ない。
無事にバレることなくクラスメイトと思われる集団は通り過ぎていった。
「あぶねぇ……」
ヘルムを外しながらそう呟いて周りを見渡すと、さすがに今の行動でバレなくとも他の人からは変な人を見る視線をぶつけられたのは仕方ない代償だということにしておこう。
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