梨々花の爆弾
ブレンド珈琲の味は少なくともあたしの好みには近い味だった。
その後、少し無言になってしまう。何を話せばいいかお互いにわかってない感じだと思う。
あたしはひとまず答えやすそうなことであり、ぱっと頭に浮かんだことを聞いてみることにした。
「あの店ではずっとバイトしてるの?」
CDはあの店でよく買うんだけど一度も見た覚えがない。行く曜日も土曜か日曜に限るから最近だとは思うんだけど。
「今年入ってからくらいです。5月ぐらいから」
「やっぱり最近だったんだ」
「あのお店よく来てるんですか?」
「まあ好きなバンドとかのアルバムとかシングル発売すると行くかな。近所は入荷してなかったり遅いことも多いから」
「ありますよね」
この反応は結構音楽聞く方なのかな。
あたしがそんなふうに考えてるとあっちから今度は質問が飛んでくる。
「日野さんってどんな音楽聞くんですか? なんとなく音楽やってるってことだけは知ってたんですけど」
「うーん。基本的にバンド系かな。ロックとかが好きなのはあるけど、普通にJ-POPとかも聞くし」
「そうなんですね。でも、たしかに最近のバンドってジャンル広いですもんね」
「飯田さんも音楽聞く感じなの? バイトするほどだし」
「わたしはアイドルが好きで聞いてるんですよね。ただ、最近アイドルバンドとかアイドルひとつとっても結構幅広いじゃないですか!」
「まあ、たしかに」
バンドのアイドルは昔からいた気がするけど、最近になって一時のバンドブームで増えた気がする。
「ちなみにどういうアイドルが好きなの?」
「推しとか決めるのが昔から苦手なんですよね。でも、女性アイドルがすごい好きで追ってます」
「男性アイドルじゃなくて女性アイドルなんだ」
「というより同い年ぐらいだったり若めの女子アイドルですかね。なんか応援したくなっちゃうんですよね!」
「へー」
インディーズとかも追ってると最近はガールズバンドも増えてるから音楽全体で女子の挑戦者が増えてるのかな。アイドルも10代とかでデビューが当たり前になってるし。
「うーん……やっぱり、去年から仲良く慣れてれば良かったです」
「そう? あたしって自分で言うのもあれだけど絡みにくくない? 音楽関係なかったらそれこそ話せないんだけど」
「今までアイドル好きの友達は多かったんですけど、曲について話せるタイプの人がいなかったんですよ」
「でもどの曲が好きとかぐらいの話はありそうだけど」
「それはあるんですけど。なんといいますが、ロック調がいいのかとかポップだからこそいいとかそういう方面まで話せなくて。わたしもアイドルをよく聞きはするんですが、J-POPとかも聞きますし」
「あー、まあたしかにアイドルだけって人とかだとそこらへんは話しにくいかもね。有名所ぐらいしか」
「そうなんですよ! なので、その……これからでいいので仲良くしてくれると嬉しいんですけど」
最後の方になるとぐいっときて、若干必死とも言えるレベルだった。
あたしとしては少し困惑はしたけど、話もしやすかったし拒否する理由はない。
「あたしでいいなら、それはもちろん」
「ありがとうございます!」
その後も帰り道も一緒だったようで、電車に乗るまで音楽の話をしていた。
最後に飯田さんの降りる駅にたどり着く直前だった。
「でも、結構話しかけに行くのも躊躇しなさそうなのに、なんであたしに話しかけられなかったの?」
なんとなく聞いてしまったこの質問が予想外の返答を呼び込むことになった。
「そ、それはその……鷲宮くんがいたので」
「夏樹?」
「その、ちょっと恥ずかしいというか照れちゃって……あ、わたしはここなのでじゃあまた学校で!」
最後にものすごい爆弾を置いて飯田さんは電車を降りていった。
無慈悲に扉がゆっくり閉じるのを見ながらあたしの頭の中が、今の発言に何の意図があるのかで頭が一杯になった。
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