青葉は自分を知る
混乱した頭が落ち着く頃には夜中の自分の部屋になっていた。
お風呂に入ってなんとなく落ち着いたんだと思う。
そして改めて考える。あたしと夏樹と多分金田がいる時に、夏樹がいるから照れてしまって話しかけられなかった。
これは一体どういう意味だろう。
寝巻きになってゲームをやる気分も起きずに、曲をかけたりギターを触ったりすること1時間が経過した。
だけどあたしの頭は全く答えにたどり着きそうにない。
「あぁ~……」
あたしがベッドに寝転がって唸り声を上げているときだった。
スマホからかわいい系の音楽が鳴り響く。この系統の着信音楽に設定しているのはあたしのスマホだと1人しかいない。
「もしもし」
『もしもーし!』
「光莉でしょ」
『そのとおりだよ! っていうか、着信見ないでとったの?』
「光莉だけは光莉ってわかる着メロにしてるからね」
『おぉ! これはもう愛だね!』
なんか光莉がすごいテンション上がってる。
「それで、どうしたの?」
『今日の報告だよー! といってもあんまり上手いこと聞けなかったんだけどね』
「光莉が? 珍しい」
『私だってそういうことはあるんだよ! あと鷲宮くんにとって少なくとも今日の最初はまだゲーム友達でありつつもリアルだと青葉ちゃんの友達の女の子ぐらいの距離感に感じたし』
「ふーん、そんな感じか」
『そんな感じだったよ。だけど、まあ多少は聞けた感じだからそれをちゃんと教えないとって思ってね』
「うん」
『いま時間大丈夫?』
「大丈夫。というよりあたしもちょっと聞きたいことがあって。そっちが先でいいんだけど」
『おっけい! じゃあひとまず今日はショッピングモールで演劇部関係でよったりするお店によったりしながら最後ゲームセンターとかにちょっといった感じだったんだよ』
あの後はゲームセンター行ってたんだ。
『まあその途中途中でそれとなく話題に出したりしたんだけど、ひとまず恋愛に興味はあるみたいだよ』
「ふーん」
『ただ、自覚した好きな人はいないって感じだね。まあ前からそんな感じだったし、新しい情報はあんまり得られなかったけど。すくなくとも私相手でもアオちゃん、つまり青葉ちゃんと思ってる人相手でも話してくれてるってことは本心ってことでいいと思うの。鷲宮くんって青葉ちゃんが知ってると思うけど隠し事得意なタイプじゃないでしょー?』
「うん。結構わかりやすいタイプだと思うからそれでいいと思う」
『ごめんね。あんまり新しい情報は得られなかったよ。だけどちょっと仲良くはなれたかな!』
「ふーん……」
『あ、今どう思った?』
「まあ、良かったんじゃない?」
あたしの中で光莉のことは信頼できているのか嫉妬心みたいなのはでてこない。
『うーん。ちなみに、青葉ちゃんが聞きたいことってなに?』
「……今日ちょっと去年のクラスメイトにあったんだけど」
『うんうん』
「まあ話したこと殆どなかったんだけど、音楽関係の友達欲しくてずっと話してみたかったとかで」
『へー! でも、たしかに青葉ちゃん音楽関係くわしいもんね』
「ただなんか……話しかけられなかった理由が、あたしが夏樹といる時に、夏樹がいると照れるとか恥ずかしいとか言ってて、これどういうことなんだろうって」
『そりゃあ……そういうことなんじゃないの?』
「そのそういうことがよくわかんなくて」
『多分、ホントはわかってると思うよ。認めないようにしてるっていうか、なんていうかな気がする。青葉ちゃんそこはもう認めちゃおう!』
認める。なんか2年になってからそんなことばっか考えてて、結局認められてないのかな。
そろそろ、あたしも認めてあげないといけないのかな。でも、それっていうのは多分色々なことがガラッと変わるわけで、耐えられるのかどうか。
『少なくとも青葉ちゃんの味方はここにいるから!』
今年に入ってからの付き合いなのに、電話越しでもわかるぐらい自信に満ちあふれて説得力のあるそんなセリフが耳にすっと入ってくる。
『うーん。それなら、じゃあその子がもしも鷲宮くんに告白してるシーンを想像してみてごらん。その時にどう思うかだよ!』
今日友達になれたという相手をそんな想像に使うのは失礼な気もするけど、しょうが無い。
飯田さんが夏樹に告白するシーンか。
まあ夏樹って別に顔が悪いわけじゃないし、気遣いはできるから好かれることはないわけじゃないはず。それになんだかんだで音楽知識とかもあるから飯田さんと話はできると思う。
でも、ゲームについての話を毎朝聞くことが果たして飯田さんにできるだろうか。あたしは隠してて実は興味あるから話を聞けてるけど、たとえやってなかったとしても聞いてたと思う。実際、興味がないジャンルとかも多少はあるからそういう話もあったけど聞いてたから。
……こんなこと考えてる時点で完全にあたしのほうが夏樹と仲がいいって思いたがってるじゃん。
あー、なんか告白シーンをちょっと想像しただけで、これだしもっと想像したらモヤッとしてきた。
多分、そうなんだ。いや、もう数ヶ月ずっとごまかし続けてきたけど認めないと光莉にも悪い気がする。
「うん。多分、嫌だと思う」
『うん』
「なんかこう、劇的に気持ちがこみ上げることはないんだけど。夏樹のこと好きだと思う」
『うんうん!』
「だからこう……一緒にいたいなって」
『うん! イエスだよ!』
「ふふっ、なんで光莉がそんなに喜んでるの」
『うーん。私が青葉ちゃんのこと好きだからかな! 青葉ちゃんずっとモヤモヤしてたと思うし、やっとスタートできるって思うし!』
「変なの……でもまあ、ありがと」
『ううん。むしろ本番はこれからだよ! 頑張っていこー!』
「はいはい」
あたし以上にテンションが上ってる光莉の様子で、どうにも落ち着いている自分がいる。
ただ、変なモヤモヤはたしかに消えた。
認めるよ。あたしは夏樹が好きだってこと。
通話が終わった後に、机の上にある写真を見る。
「あー……もうこの頃から好きだったのかなー。そういえば、あたしが言ってツーショットとったような気もしなくもない写真いっぱいある」
どれだけ自分の気持ちに鈍感だったんだと頭では呆れている。
それなのになぜか心はスッキリとしていて、小さく笑っている自分がいた。
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