ダンジョン突入

 ダンジョンは基本的には地下に降りていくタイプになっている。それと同時に入り口から先がフィールドとは別のサーバーになっていて、これは人数が閉鎖的な空間でギチギチになって何もできない人が多くなるのを防ぐためである。とはいえ、そこそこの人数は同じサーバーに入れるわけだが。

 俺たちは一応隊列を組んでダンジョンの中へと足を踏み入れた。

 中に入ると少しだけロード時間の代わりと言わんばかりの通路を進んで、開けた場所にでることになる。


「おー、ダンジョンってこうなってるんだ。なんか、予想外!」


 開けた先を見たヒカリさんはそういう。まあ気持ちはわからないでもない。

 通路とか地下に進んでいくことから薄暗い場所をイメージしやすい。しかし、どちらかといえば入るたびに形の変わるダンジョンゲームみたいに中に小さいフィールドのようなものが広がっているのだ。

 今回は岩石がそこら中に転がっている火山地帯をイメージしたダンジョンになっていた。

 ちなみにフィールドと比べれば狭いからリヴァイアスの人が集まるところのプレイヤー全員が入ったらギッチギチになると思われる。つまりは閉鎖空間っぽくないけど閉鎖空間だからサーバーを分ける意味はあると改めて認識できるのだ。


「それで、どうすればいいの?」

「とりあえず素材ってのは鉱石系だというのはわかったから。ガルドは採取して俺らがそれを守っていく感じでいいと思う」

「おっけい!」

「アオはガルドの近くにいてくれ。そっちのが守りやすいから、そんで後ろから援護よろしく」

「わかった」


 しかし、火山地帯系だとモンスターは岩系か火属性の動物系が多い。動物系なら盗賊でも対処できるけど、岩だと攻撃通りにくいんだよな。


「おっしゃあ、そんじゃあやっていこうぜ!」


 ガルドはそう言うとバッグからピッケルを取り出して、岩石を叩き始めた。採取が得意なクラスもあるため商人はレアが取れやすい岩石を見分けることができるわけじゃない。ようするに数集めることになる。

 岩石を叩き始めて数分後、一体のゴーレムがゆっくりとこちらへと近づいてくるのが見えた。人型で俺たちより少し大きい岩のゴーレムだ。


「よし、俺が囮になるからヒカリさんとアオでHP減らすの頼んだ。少し硬いかもしれないけど倒せないレベルじゃない」


 俺は即座に戦闘計画を伝える。作戦というほどじゃないけど、慣れてない2人には役割さえあれば動きやすいはずだ。


「すまん。ナツ、それは駄目だ!」


 ゴーレムが戦闘距離まで入ってくるのを待っていると後ろからそんなガルドの声が聞こえる。


「なんでだ! って、嘘だろ!?」


 俺が反応して振り向くとガルドの採掘する岩の更に奥の方向から動物が2匹走ってくるのが見えてしまった。壁際とか崖に囲まれてるわけじゃないから、前と後ろというのも自分の感覚になってしまう。


「すまん、ヒカリさんとアオでゴーレム頼む。腕のふりは遅いから気をつければ大丈夫なはずだ!」

「まかせて!」

「ナツは?」

「俺が後ろのやつらやる! ガルドはとにかく早く採掘終わらせろ!」


 俺は2人にゴーレムを任せてガルドの横を走り抜けて動物の前に立ちふさがる。このゲームには一応ヘイトというシステムが存在していて、ヘイトが高いやつほど狙われやすい。

 盗賊は普段はヘイトが溜まりにくいクラスだったりする。しかし、レベルを上げて覚えるスキルにヘイトを貯める挑発がある。俺はそれを使って動物の視線を釘付けにした。

 そのタイミングで、後ろではゴーレムが恐らく地面を殴ったであろう轟音と火属性魔法らしき爆発音が聞こえてきた。


「よし、俺もがんばりますか!」


 目の前に現れた動物を近距離に視認して種類がわかった。

 ファイヤラットというそのまんま火鼠。噛みつき攻撃に火属性がついていてもろに食らうと火傷状態になったりする微妙に厄介なやつで俺が苦手なモンスターだ。

 ネズミの鳴き声を小さく漏らしながら挑発をした俺にたいして2匹がバラバラに飛びかかってきた。


「やばい、速さになれない」


 俺はファイヤラットの攻撃を避けながらそう呟いてしまう。

 今まで重めの武器だったり剣士系を使うことが多かったせいで回避よりも防御とかカウンターを狙う戦闘スタイルだった。そのせいで盗賊の速さになれずに回避する時に走りすぎたり攻撃するのに通り過ぎたりしてしまっていた。

 しかし、元々知っているモンスターだったから10分程度かけて地道に短剣を当てていくことでどうにか倒すことができた。


「ナツおつかれ」

「おう、お前は掘り終わったか?」

「この辺はなんとかな。次の階目指そうぜ。あっちもどうにかなったみたいだしな」


 ガルドが指さした方向ではアオとヒカリさんが周りを見張りつつなにか話している。


「まあどうにかなったならいいんだ」

「心配性だな」

「いや、このタイミングでボロ負けしてゲームが嫌になるのも嫌じゃん?」

「まあそうだけども、たった数回でなったらそもそもゲームとの相性悪いだろうしな。とにかく、あの2人と合流しようぜ。気楽に気楽にな」


 ガルドの軽い雰囲気を見ていて、なんとなく力が抜けた。俺も気負いすぎてたみたいかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る