護衛クエスト
予定時間となって集合場所へと移動してくると、荷車に荷物を積んでいるガルドの姿が見えた。あっちも俺に気づいたようで手を降って「おーい! こっちこっち」と言ってくる。
「別にそんな声ださないでもわかるっての」
「いや、こうなんとなくな」
「そうかい。荷物は積み終わったのか?」
「バッチリだ。後は他の護衛さんたちがもうすぐ来るって感じだな」
「やっぱり雇ってたか……それで、どんなやつらだ?」
これから向かうリヴァイアスの西にある『岩礁の入り口・ゴルドン』までの道はでてくるモンスターは弱いけど多い。レベル的には俺なら負けることはないんだが、いかんせん手が足りなくなるのは予想できていた。ただ、そんなことはガルドのやつも分かっているはずと思ってたので俺の方からは言ってなかったわけだ。
「初心者グループ。ついでにリアル知り合いだぜ。お前ともな」
「マジでそういうのは先にいっておいてくれねえかな」
ゲーム内での関係ならいざしらず、リア友関係だと妙に恥ずかしく感じるときもある。まあ男子友達ぐらいしかいないからすぐに慣れるんだけどな。どうせ、今回もクラス替えで仲良くなった連中の誰かだろう。
そう勝手に思っていた俺だったが、その後にガルドが声をかけながら近づいていった先にいたのはさきほど橋にいた女子の数人だった。俺は思わず顔を手で抑えてうつむく。
まずい。何がまずいかと言われれば俺のリアルでの立場がやばい。男子友達はそこそこいるが女子友達はほぼいない。ついでに言えば、ゲーム好きであることは嫌でも絡んでるメンツでバレているだろうが、今回のこれでプレイ時間がアホなことがバレてしまったらまずい。特に理由も根拠もないけどまずい気がする。
でも考え直してみれば、あいつらもゲームを始めたということはゲームへの偏見はないんじゃないだろうか。それならば別にバレたところで今までどおりリアルではただのクラスメイトである程度で抑えられるはずだ。なんだ、俺の気にしすぎだったか。
「どうした? 顔抑えて」
「いや、なんでもない……」
戻ってきて真っ先に心配してくるガルドのことを適当に流しながら改めて女子たちとご対面する。
「金田くん……じゃなかった。ガルドくん、この人が一緒に言ってたっていうか鷲宮くんだよね?」
「そうだ。夏樹だ」
遅いながらに自己紹介をしておこう。俺の名前は
そして目の前にいる4人のうち2人は確実に顔に見覚えがあるが残りの2人は面影はあるけれど髪の色などもあって合ってる自信がない。
「…………予想と間違ってたら申し訳ないんだが、青葉か?」
黒髪ショートではなく銀髪ショートであるクール系な雰囲気を醸し出している1人の女子にそう聞いてみる。なんとなく顔の雰囲気も青葉に似ている気がするがこのゲームやるイメージがない。それとこの4人と一緒にいつも一緒にいるイメージもないから自信がなくて聞いてみたわけだ。
「…………そうだったら何?」
「いや、別にいいんだ。間違ってたら申し訳ないからな」
1人は青葉で確定だ。
片手剣を腰につけている剣士らしい。ちなみに戦士と剣士の違いは剣士は剣系の武器しか装備できない代わりに技などの威力が高く戦士は近接武器ほぼ全種を装備できる代わりに技の種類は広くて威力は剣士に劣るといった形の差異がなされている。
そんなやりとりをしているともうひとり面影はあるが自信のない人物が話しかけてきた。
金髪のツインテールでアイドルとでも言えばいいような雰囲気の彼女だが、予想が正しければクラスのアイドル的存在でリアルでは茶髪ツーサイドアップの演劇部の女子のはずだ。問題は名前を全く覚えていないことだが。
「鷲宮くん私は? 私はわかる?」
「えっと……すまん。名前が出てこない」
正直に答えておこう。まだクラス替えから一ヶ月しか経ってないし覚えてなくてもしょうがないだろう。しょうがないよな。しょうがないですよね。
しかし、なんかアイドルだとか言われるのがわかるくらいに見た目が可愛いのわかる。初期装備に近いシンプルにもかかわらずそれがにじみ出ている。ゲーム内でキュートな装備とか衣装揃えたら話題になりそうなくらいだ。
だが、名前が出てこない。というか自己紹介一回とかで覚えられるやつは尊敬するくらいだからな。
「えっと、
「大川……大川光莉な。よし、多分覚えた!」
「ま、まあ、これから覚えてくれればいいから。今日はよろしく」
その後の残りの二人とも挨拶を交わしてから俺たちは出発した。
ちなみに、もともとは青葉と大川さんもとい現在のヒカリさん以外の二人をガルドは誘っていたらしいが、タイミングよく集まってこのメンバーになったらしい。
ゴルドンへと向かう道中は途中までは草原地帯でその後は岩などの転がっている荒野とでも言えばいい地帯になる。簡単にいえば隠れる場所や障害物がない。
これは俺達から敵が見やすい代わりにでかい荷車は全方位どこからでも襲われる可能性があるということにもなる。そして数が多い。つまり1人だと確実に手が足りなくなるわけだ。金をかければこのレベル帯に対してならばほぼ無傷になる装甲みたいなものを荷車につけることも可能だけれど、誰かを雇ったほうが圧倒的に安上がりらしい。
現在は草原地帯を荷車に合わせて移動中だ。俺は青葉ことアオとヒカリさんの二人と一緒に荷車の後方を歩いている。ヒカリさんはどうやら弓使いのクラスを今は使っているらしい。そしてアオが剣士で、俺も剣士になるから接近してくる敵にはかなり強いバランスだろう。まあ、この道でなら特に魔法クラスが必須ということもないから問題ない。経験者の俺はそんな風に考える。
「しかし……よくお前が始めたな」
「は?」
無言なのもあれなのでアオにそう話しかけてみると無慈悲でありながらもいつもどおりに感じる反応が返ってくる。いや、なんかいつもよりもドスがきいてる気がしないでもない。
「いや、だってなんつうかゲームはやらないわけではないけど、オンラインゲーム系に手を出すようには見えなかったからさ。今までも誘ってものってくれた試しがなかったし」
「別に……ヒカリに誘われただけ」
「そういうことなの?」
ここで会話を途切れさせるのもあれだし、本当にそうなのかという確認も込めてそのままヒカリさんにきいてみた。いや、これで否定されたらまるで俺に誘われたから今までやってなかったみたいな感じになってしまって辛いからとかそういうわけじゃない。
「そう。私が誘ったの。新しいクラスになって最近話題になってたしって思って」
「そういうことか。まあ、俺は安心したよ」
「ちょっと、どういうこと~?」
「え、いや、まあアオってほら。友達少ないから」
「そんなことないでしょ」
「な、なぜヒカリさんがそんなに反応するか定かではないけれど、なんかごめんなさい」
妙にアオを庇うというかフォローするヒカリさんの圧に思わず謝ってしまった。
というかここまで言われるほどに仲良くなってるってことなのか。だとしたらますます予想外だ。今までアオの周りにいた人間といえば音楽的な趣味が合うやつとかしか知らない。それもロックとか青春パンクとかそっち系になる。対してヒカリさんは外見やイメージの話だけどポップとかそっち系のイメージだ。さらに言えばそれ以外の趣味に関してもアオと普段から絡んでいくタイプには思えない。
だけど、女子の人間関係ってものは俺の予想のできないようなことがたくさんあるんだろう。なにより仲がいいのはいいことだしな。
「ヒ、ヒカリ。それくらいでいい。それに……ほら」
そして珍しく少し焦っているアオが止めに入ってくれた。
「あっ……い、いやなんか熱くなっちゃってゴメン」
「まあ、俺も腐れ縁とはいえなんというかデリカシーがなかったかもしれんからな。それに、このゲーム自体は俺もオススメだからやってくれるにこしたことはないし楽しもうぜってことで」
「うん、いろいろ教えてね」
そういってヒカリさんに歩きながらではあるが改めて握手を求められる。
「おう、俺でいいなら任せておけ。アオもな」
俺もそれに返しながらもう一つの空いている手でサムズアップしてアオにも伝えておいた。
「わかった」
アオからはそんな返事が返ってきたけれど、つまらないというわけでもなさそうだからいいか。
その後も軽い雑談をしながら歩いていると、周りの景色が緑色から岩の茶色へと徐々に変化し始める。珍しく草原地帯ではモンスターに襲われなかった様子だが、前には来てたかもしれないし他にもプレイヤーが多く草原にいたからこっちにきてなかっただけかもしれない。何にせよ運がいい。
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