レアモンスター・岩先輩との遭遇
完全な荒野へと入ってきてからちらほらとモンスターに襲われた。しかし、俺が1人「くっ、ここは俺に任せろ!」と叫ぶ展開にはならずにすんでいる。少なくとも、大体の人はゴルドンまでたどり着いたらどんなクラスの人であれ西へと向かう。それは難易度が低いということにほかならない。つまりリアルで友人なメンバーが連携をとれば苦戦はしない程度だったわけだ。
そしてとうとう前方で馬を操るガルドが声を上げた。
「見えてきたぞー!」
俺とガルド以外の初めてゴルドンへと訪れた彼女たちはそれぞれの反応を見せる。それを見ているとプレイし始めた頃のことを俺も思い出すなんてことを考えた。
しかし、前方のゴルドンから目を話して視線を後ろに戻した時にその考えは吹き飛んでいった。
「やばいやばい! 岩先輩がきた!!」
俺は思わずそう叫んでしまった。
荷車の後方であり俺の目の前に人知れずしずかに現れたのはこのフィールドのレアモンスターである『ロック・ゴーレム』だ。レアモンスターではあるものの通り道に出てくるから目撃例は多いため『岩先輩』の愛称で知られている。愛称と名前の通り複数の大岩でできている人型のゴーレムで人間キャラクターの2倍ほどの大きさがある。
「なに、どうすればいいの!?」
失礼ながら似合わないと思ってしまった声をアオが上げているのを横目にしつつ、俺は武器を構える。逆にこちらもイメージと違うがヒカリさんは冷静に戦闘態勢だ。
「ナツ……くん。どうすればいいの?」
「ぶっちゃけると相性が悪いから逃げたい」
レアモンスターは総じてそのフィールドの中では強い扱いになる。しかしこのフィールドの強いは俺一人でも本来は倒せると言えるだろう。だが、レアモンスターなどの中には極端な性能のやつがいるから俺は「やばい」と言ってしまったのだ。
岩先輩の性能は見た目通りの頑丈な体だ。ゲームとかで時たまある『斬撃武器耐性』とでも言えばいいだろう。剣や槍含めた斬撃系のダメージに矢とかの物理遠距離ダメージの多くのダメージへの耐性が強い。
岩先輩への対処はそのため簡単でメイスやハンマー等の打撃武器で砕く気持ちで攻撃を与えるか魔法で攻撃することだ。だが、今回のパーティーでは前方に1人魔法使いがいるだけで、しかも初心者に等しい魔法使いだからさすがに岩先輩だと分が悪い。
「俺が時間稼ぐから早くゴルドンに行け!」
幸いにも防具と経験で時間稼ぎなら剣でも可能と考えた俺はそうガルドに向かって聞こえるように叫んだ。数秒後に「了解した! ゴルドンの荷物置き場で合流だ!」と返ってきて荷車が少しだけ速度を上げる。
「ナツ。あたしたちも手伝う」
「うん。できることないかな?」
後方にいた二人は状況を察してかそう言ってくれる。
「まあ倒す気はないから馬車がそこそこ遠くなるまで時間稼ぎだな。死なないように気をつけながら戦おう。幸いにもこいつ足は遅いから」
多分、こんな近くにいるのに気づかなかったのも偶然道の横にでも出現しちゃっただけだろうしな。
ゲームだし「早くお前らもいけ!」なんて言う必要もない。
* * *
数分後。荷車が離れたのを確認してから俺たちも全力で走って逃げ出した。何度か俺が攻撃を食らってしまったものの、俺だったから死なずに済んで実質的に被害は0だ。その後にも別のモンスターに襲われることもなくゴルドンの中へと入ることができて目的地に到着した。
先にたどり着いていたガルドは「お前ならあれ相手にヘマすることもないだろ」とか言いながら荷物をおろしている。他の二人はひとまずこの町のギルドへと向かったらしい。
現実の時間を確認すると夜の9時だ。このゲーム内では一部の場所を覗いて3時間ごとに朝と夜が入れ替わるようになっている。つまり現実の1日の間に4日がすぎる計算だ。これは仕事や学校で特定の時間にはプレイがしにくいプレイヤーのための措置らしい。
「俺は一応今日は10時ごろまでやったら終わりにする予定だけど、まだなんかあるか?」
「今日はここでNPCとの交渉終わらせたら適当に露店少しやったらやめる予定だな。報酬はギルドの方に一括で振り込んでおいたんで各自で受け取っておいてくれ」
このゲームではプレイヤーが報酬をギルドに渡しておくことで依頼を受けてもらえるシステムがある。今回の護衛の場合は友人間だから直接お金を渡すこともできるが、何人護衛になるかもわからなかったからめんどくさくてギルドのシステム任せにしたんだろう。
まあ、そもそも護衛依頼をプレイヤー間で行う場合は直接その場にいる人に頼むほうが確実だしな。
「はいよ。あー……アオとヒカリさんはどうする? まだ時間あるならギルドまでいって説明するけど」
勝手な予想だけど、今の会話に若干ついてきてない雰囲気があるからガルドは依頼の受け方しか説明してないんだろう。報酬の受け取り方とかも教えとけよな。
「ごめん。寝る前に少しやっておきたいことがあるから私はまたこんど教えてもらえるかな?」
ヒカリさんは時間を確認してからそういった。課題とかは特になかった気がするけど、ヒカリさんは演劇部入ってるしそっち関係かもしれない。まあ、これくらいならいつでも教えられるしゲームやってれば自然とわかることだから大丈夫だろう。
「了解。アオは?」
改めてアオにも聞く。
「よくわかんないからあたしは教えてもらいたいかな」
「はいよ」
「それじゃあ私はこれで、アオちゃんまた明日学校でねー!」
「うん。またね」
挨拶を済ませると彼女はログアウトしていった。ゲーム内で見てると目の前から突然消える感じで慣れてないとびっくりする。
「そんじゃあいくか。ガルドもまたな」
「おう。アオもまた明日な」
「うん」
ガルドとアオも腐れ縁みたいな関係だから軽く手を挙げるだけでも言いたいことは伝わる。ガルドが街の中に消えていくのを見送った後に俺たちも移動を開始した。
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