青葉の心境

 草原までたどり着くと他にもウルフやラビットを狩っているパーティーがちらほら見える。あたしたちもなるべく他のパーティーと目標が被らない位置に移動してモンスターが出てくるのを待つ。

 このフィールドは障害物がかなりないため、隠れているモンスターを探したりするよりも少しこうやって待機してモンスターのほうがポップするのを待ったほうが早い。

 2分ほどまっていたらすぐにウルフが目の前にポップした。あたしが拳闘士で魔法使いのアオが後衛というわかりやすい立ち位置で戦う。


「よし、いっくよー! 右ストレート!」


 ボクシングの知識があるわけじゃないけど、勢いよく右拳をウルフにぶつける。さすがにレベルが低いクラスなので一撃とはいかずにウルフもこちらに噛み付こうとしてくる。


「ファイヤ!」


 あたしがひるんでバックステップすると突っ込んでくるウルフに対して後ろから小さい火の弾丸が飛んできて直撃した。それで怯んだ好きにあたしがトドメのキックを入れる。


「一匹なら楽だね」

「うん。魔法も使いやすい」


 このゲームの魔法はわりとわかりやすい英語に近い名前が多くて、その前に【ヘル】や【ジ】などの言葉がつくと消費MPや威力が上がる。

 その後、数匹狩るけれど運が悪いのか牙がなかなか手に入れられない。物をほしいと思うほどでなくなる物欲センサーってやつかもしれない。

 ウルフを狩ること自体には慣れてきて、会話しながらでも大丈夫になった。しかし、それはあたしにとってはウルフ以上の敵の出現を意味していたらしい。


「ところで、今日はナツからは連絡ないの?」

「な、なんで私の聞くのかな!?」

「いや、だってリアルの連絡先的にはそっちにいくはずだから」

「あー……いや、まあでもきてないよ!」


 多分、今日はあいつが苦手な教科の課題出てたしそれで苦戦してるか力尽きて休憩してると思う。


「そう。まあそれなら仕方ない。でも、あとで一緒にやる時はよんでね」

「呼ぶっていうか。私から連絡する場合アオがいないとだめでしょ!!」


 ウルフを殴り倒しながらあたしは大声で返す。思わず声が大きくなったけど、あたしがリアルで連絡した場合はあっちはアオから連絡がきたと考えてるんだから当たり前である。


「じゃあ、一緒にやりたい時は連絡頂戴」

「はいはい! 私から入れるよ!」

「夜なら大丈夫だから。夕方は部活ある日はちょっと早いと難しい」

「わかってる!」


 部活なんだからそこは仕方ない。いや、別にやる時は長い時間がやりたいとかそういうことじゃないし、そんなところは気を使わなくたっていい。


「ついでになんだけど」

「なに!?」

「リアルでもせっかくだし遊んでみたい。ナツってそういうのにはどんな感じ?」

「えっ……えっと」


 夏樹はどうだったかな。別に外に出たくないっていうタイプでもないから遊びに誘えば出てくる気がする。あたしが買い物なんとなく誘うときも一緒に来てくれたりするし、大きな買い物の時は運ぶの手伝ってくれたり――。


「なんであたしに聞くの!?」

「でてるでてる」

「私になんで聞くの?」

「知ってると思ったから」


 いや、たしかに知ってるけど。付き合いが長い幼馴染だからってだけだから。


「まあ、呼べば来ると思うよ。よほど忙しい人かじゃなければ」

「了解。じゃあまずは学校で話しかけるから手伝って」

「えっ、別に私の力いらなくないかな?」

「あたしだけよりも話しかけやすいと思う」

「……わかったよ。明日の昼休みでいい?」

「おっけ」


 よく考えたら昨日のやりとりでアオもとい光莉のことを夏樹は全然知らなかった。さすがに光莉でも多少のハードルはあるのかもしれない。


「最後に」


 これ以上何があるんだろう。あたしはすでに振り回されっぱなしなんだけど。


「牙集まった」

「あ……うん」


 何故かすごく落ち着いた瞬間だった。

 そのままNPCに素材を納品する頃には特に連絡もなければログアウトしてもいい時間だった。


「お金結構もらえた」

「でしょ。序盤はNPCの依頼は結構稼げるんだよね」

「あたしももっと受けて装備とか整えたい」


 あたしの服装を見ながらそういう。拳闘士装備は偶然ダンジョンで拾えたのが気に入ったから使ってるだけで、弱いんだけどな。


「あたしが可愛くなればリアルでの評価も高くなるよ?」

「なんでそれを私に言うの?」

「手伝って」

「……まあ、ゲームを一緒に楽しむって意味で手伝うのは全然オッケイ!」


 念には念を押しておくけど意味はない気がする。だって相手は光莉だから。


「ありがとう。じゃあ、今日はこれで?」

「私は落ちるかな」

「わかった。じゃあ、また明日。お昼はよろしく」

「はいはい。それじゃあね」


 あたしはそう言ってからログアウトした。リアルに戻ってヘッドギアをいつも置いている位置に戻す。


「はぁ……うん?」


 ヘッドギアを置いた時に机の上にある写真立てが目に入る。中学の修学旅行の時に夏樹と撮った写真だ。改めて考えるとなんでこれを写真立てに入れて飾ってるんだろう。コルクボードにも金田とかも一緒に撮った写真を飾ってるけど……。


「光莉が言ってることが間違いじゃない……なんてことないよね?」


 だんだん自分の気持にも自信がなくなってきた。そのままあたしはモヤモヤする気持ちをごまかすためにベッドに入って目を瞑った。

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