自分の気持ちに正直に
ライブの時間はあっという間に過ぎていき、駅まで戻った頃には日は完全に日が落ちて夜になっていた。
待ち合わせを駅にしてたのは単純にその前に近くでやりたいことがあればさきにやっておけという考えだと思う。つまり帰りは電車も一緒で帰る。
改札をくぐって次の電車を待っている間、なんとなく沈黙が続く。
ただ、普通の会話と違ってこの沈黙は嫌いじゃない。ライブを見た後の充実した疲れやけだるさが体を襲ってきてるとも言える。
「今日はいい感じだったな」
「いつもいい感じだと思うけど」
多分、たまにまとまりがみえないバンドとかに当たるときもあるけど、今日は全バンド好みだったりしたってことを夏樹はいいたいんだと思う。
もちろんまとまりがあれば無条件でいいってわけでもないけど。
なんとなく会話が生まれたこのタイミングで聞いてみようかな。
「夏樹さ」
「うん?」
「その、何であたしのこと誘ってきたの。珍しいっていうかさ」
「あー……やっぱ気になる?」
「いや別に言いたくないならそれでいいけど」
夏樹はあたしのその言葉を聞くと少し唸ってから後頭部に手をやって気恥ずかしそうに話し始めた。
「なんか最近そういうの減ったなって思ってな。いや、もちろん友達が増えることがいいと思うんだよ。ただ、つまりはなんだかんだ5年以上ずっと一緒に色々やってきたから変な違和感っていうか」
「あんたはあたしのお父さんか」
「いや、そういうんじゃないんだがな。そうだな……まあ、あってるかわからないけど、大川に時間を取られたとか思ってたんかね。まあ夏になる頃には慣れると思うんだけどな。今まで結局俺が一番一緒にいたのって青葉だったから」
「なにそれ」
つまり勝手に光莉に嫉妬してたとかそういうこと。いや、なんで夏樹があたしと光莉の仲に対して嫉妬してるかワケわからない。ゲームとかの反応を見てても好みは光莉のほうが近い気がする。
それならむしろ嫉妬の対象になるべきはあたしのはず。それとも本当に友情的な嫉妬を夏樹はしてたっていうのか。
正直、そうだとしたら嬉しいと思ってるアタシもいる。
そんなふうに思っていると電車が目の前にやってきた。扉が開いて中に乗った時、銀色のてすりに映るアタシの顔は少しだけ赤くなっている気がした。
その後は特にとりとめもない何時も通りの内容もない会話ばっかりしているうちにあたしの家について別れることになった。
「そんじゃ、また……明後日か?」
「なんで疑問系」
「ゲームするなら明日とかも会えるけど……まあいいや。とりあえずまたな」
「うん。気をつけて」
「おう」
あたしは街頭が照らす道を歩いていく夏樹の背中を見送った後に家に入る。
その後は今日はゲームをする気も起きずにお風呂に入って部屋に戻って、気づいたら光莉に電話をかけていた。
『はいもしもーし!』
「光莉?」
『光莉ちゃんの携帯にかけたんだから私だよ! それで、どうしたの? 青葉ちゃんから電話とか珍しい』
「いや、なんとなくっていうか」
『そうなんだ。ところでデートどうだった!』
「……まあ楽しかったよ」
『よかったね! そしてついに認めましたな!』
「皮肉にも光莉のおかげでね。ただ、まだ正直自分でもよくわかってないから……手伝ってくれない?」
『何をかわからないけど、私でいいならもちろん手伝うよ!」
「うん。じゃあ今度話す」
『おっけー!』
電話が終わった後に改めて部屋にある写真立てを見る。
「自分の気持ちに正直になるって難しい」
最近、本当にそう思う。
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