テストと遭遇

 フロアに入ると俺の目の前に2体のタイヤ1つで動くアンバランスな機械のウィーガが現れた。頭部とも言える小さなカメラがこちらを捉えると鋭利な両腕を構えてくる。

 俺も担いでいたハンマーをしっかりと両手で持って構えた。


「2匹ならまあどうにかなるか」


 戦闘開始だ。

 通路の幅は人間が3人並んでぴったり嵌る程度のサイズ。モンスターの特徴として固く刃を通さない代わりに一定以上の打撃には弱い金属の体と、最初にターゲットした相手をひたすら狙ってくる。

 だからこそテスト相手として俺のことを狙ってくれるには都合がいいし、それもわかった上で相手に選んだんだろうな。


「2体同時にくるのはやめてくれよ!」


 俺はそういいながら2体のうちの右にいるウィーガに向かって走り出した。

 右のウィーガはそれに真正面から受けて立つという動きで突っ込んでくる。もう一体のウィーガはそのウィーガの後ろについてくるように移動してくる。

 たまに回り込んでくる時があるからめんどくさいが、これなら一人でも大丈夫なはず。


「よいしょー!」


 俺はちょうどいい距離になったところで強く踏み込んでハンマーを勢いよく頭上まで上げてそのままウィーガめがけて振り下ろした。

 見事に直撃したウィーガは一定量のダメージが越えたようでHPが消し飛んで機能停止する。だが、その瞬間にもう一体のウィーガが俺に攻撃してきた。

 いつも使ってたハンマーだとこのままダメージを食らうが、今回使っているコノミハンマーAの軽さがここで仕事をしてくれる。俺はいつもより早く次の行動に移れてギリギリのところでバックステップで回避に成功した。


「おおー!」

「どうしたん?」

「いつものだったら今の攻撃はハンマー持ち上げる動作のせいであたってたけど軽いからギリかわせた!」

「ほう! それはいいこときいたわ。やっぱりハンマーは軽さ影響出るんやな」

「おう!」


 俺は感想を伝えつつもう一体を野球のバッドのようなハンマーの横振りでウィーガを壁に叩きつけて倒した。

 武器の変更や細かい感想を伝えるために一旦1つ前の通路に戻る。

 俺は次のコノミハンマーBを試しフリしながらAの感想を伝えた。Bは今の所は普通のハンマーと同じ感覚だ。


「それは攻撃した時の感覚変えてみたんよ。なんかアップデートでいろいろ変わるみたいで試しに作ってみたやつや」


 さっきと同じようにウィーガを見る。縦振りだとあまり変わらないが横振りで命中した瞬間に少し違和感があった。

 なんていうかあたった瞬間に押し返されるように柄の部分がしなって更に力を入れて振ることになったみたいな。

 そのまま感想を伝えてみる。


「やっぱりそんな感じなんやな。威力は?」

「まあ力入れたぶん上がってたんだろうけど、すごい微量だったから大差ないと思うぞ」

「うーん。なんか素材変えて威力上がらんかなって思って、バネみたいな感じになるやつにしてみたんやけど、これは意味なさそうやね」

「まあ、好みの問題になりそうなのと耐久性次第じゃないか? ただ流石に今回のこれだけで耐久値を詳しくはわからないだろ」

「せやな。そんじゃ最後にC頼むわ」


 一度このタイミングでAとBを返してCを装備してみる。

 前の2つから予想はついてたけどCは重い。いつも使ってるのよりもずっしりくるな。


「威力は高そうだけど……」

「あ、それは武器の追加効果で一定ダメージ以上はスーパーアーマーつくようにしてあるわ」

「完全に食らうの前提で設計してんじゃねえか」


 このゲームはVR系だからのけぞりとかも個人の度胸に影響受ける時はあるけど、それ抜きにしてもダメージを受けすぎたり吹き飛ばされることはある。スーパーアーマーという効果はその自動ののけぞりを一定ダメージまでは無視するものだ。

 ただこれになれるとHP計算を間違えて攻撃をするための耐えてたら死んでたなんてこともあるから注意だ。


 本日最後のテストとして再びウィーガがでてくるフロアにくる。しかし、少しだけさっきまでと違って一体しかでてこなかった。別に2体絶対にでてくると決まってるわけでもないはずだからおかしくはないんだけどな。


「まあ、ちょうどいいか」


 俺はさっきまでとは打って変わって武器を構えて少しだけ振り回して相手に自分を認識させる。すると予想通り俺に突っ込んできた。

 重いハンマーのテストだから待ち受けたりしたほうがいいと思って、俺はしっかりと地面を踏みしめて思い一撃を出すために力を溜める。

 そしてウィーガが俺の懐に攻撃を入れてきたところでカウンター気味にハンマーを振り上げた。

 腹下からもろにハンマーを食らってそこそこ高く宙を舞った後にウィーガは耳にキンキンくる金属音を鳴らして落下し動かなくなった。


「一撃は申し分ないな。好きな人は好きだと思う」

「よっしゃ、ありがとな! それじゃあ、報酬はリヴァイアスに戻った後でええか?」

「大丈夫だ……うん?」


 俺はCのハンマーを返して普段使ってるハンマーを装備した時、小さい音が聞こえてそちらを向いてしまう。


「あっちってなんかあったか?」

「たしか、出入口の前のあの瓦礫のところが下に開いてる隙間はいるとそっちの通路行けた気がするけど。でも、わざわざそっちのルートつかわんでもこっちから回れば同じところいけるからなー。あんまそっち行く人聞いたことないで」

「でもなんか音聞こえるんだよ」

「ほんま? ……たしかに、これ戦闘音やな」


 金属音というかそれこそウィーガと戦っている音のように聞こえる。


「行ってみるか?」

「わざわざ水差さんでもええと思うけどな」

「それもそうか」


 目的があってそっちに行って戦ってるならそれもまたゲームだしな。

 俺たちは少し気にはなったもののその場を後にして出入口の方へと向かった。

 壊れた扉の場所まできたらもう外にでるまでは敵がでてこない。俺も正直機が抜けていたその時、近くで大きな音が経って思わず振り向いた。


「あっ……」

「……は?」


 そして振り向いた先には、瓦礫の下をはいずってでてきている見覚えのある金髪ツインテール――ヒカリさんの姿があった。

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