第28話 しちゃう……しちゃわない?
「おはよー雛っち」
「おっ……おはよ! き、今日は良い天気だね!」
「良い天気なことには違いないけど……どうしたの雛っち? いつもと様子が違うけど」
「そ、そんなことはないよ……!? う、うん!」
雛の友達である桃華が登校した際のこと。
いつも通りに朝の挨拶を交わす桃華は、雛の様子が違うことに気付いた。
「ははぁーん。さてはその女子力マックスな袋に何か入ってるんだなぁ?」
「……っ!」
桃華が目を付けたもの。ーーそれは机の端に掛けられている『
普段持ってきていないその袋が、雛の違和感に関係していると見た桃華の予想は的中する。
「その反応……。図星だね? いやぁ、見たくなるなぁ〜。どうせ翔さん関係だろうけど!!」
「……っっ!!」
「じゃあじゃあ、拝見するねー? ちょっと強引なのは先に謝っておくから!」
「あっ!」
モーション無しでヒョイッとその布袋を机から奪い取った桃華は、したり顔をしながら中を覗く。
桃華は分かっていた。この袋の中に入っているナニカが別に見られても構わない物だということに。
「ふむ。これは……コート? ……えっと、このいかにも
「し、翔おにいちゃんの……」
「翔さんの? ……サイズ的にそうだと思ったけど……好きすぎてとうとう盗んじゃった?」
「ぬ、盗んでないよっ!」
「あははっ、冗談だって冗談。でも、なんで雛っちが持ってるの?」
「そ、それは……」
桃華の疑問は最も。雛はどのような経緯で自分が持ち帰ることになったのかを、詳細にではなく、ある程度掻い摘んで説明するのであった。
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「なるほどねぇ。それじゃあ今日は翔さんに返そうと思って学校に持ってきたんだ?」
「う、うん……。早く返さないと翔おにいちゃん困ると思うから……」
「へぇ。困るのは雛っち
「…………」
語尾を上げて『ネ?』と聞き返す桃華。この瞬間、嫌な予感が脳裏に
「一つ聞きたいことがあるんだけどぉ〜」
「き、聞きたい……こと……」
「単刀直入に聞くけど、昨日、このコートを使ってナニカしたでしょ?」
「……ッ! な、何かってなんですか!?」
友達には……いや、誰にもバレたくないことをした雛だがらこそ、なんとか誤魔化しに図る……が、この慌てようを見せれば隠せるものも隠せるはずがない。
嘘を付いたり誤魔化すことが出来ない性格で、一人を想い続ける一途な雛。
こういったことを隠したりしたい時に不便でしかない二点だが、これが雛の魅力でもある。
「な、なんで敬語……? まぁ良いけど、このコートから翔さんの香水の匂いと雛っちの匂いが混じってるからさ。このコートを使ってなにかしてたんじゃないかなってね。ただハンガーにかけてるだけじゃ、ここまで匂いは移らないだろうしぃ?」
「……うぅ……っ」
全てを見通したように得意げな顔を見せる桃華だが、何に使ったのか完全に把握しているわけではない。
しかし、好きな人の匂いが付いたものを持ち帰ることが出来たなら……ナニカをしてしまうのは無理のないこと。特に雛は、8年間もずっと想ってきた相手なのだから。
「雛っちのことだからエッチなことに使用したりはしてないと思うんだけどーー」
『このコートを抱いたりして寝た?』
なんて言葉を続けようとした桃華だったが……雛の異変に一瞬で気付く。いや、コレばかりは友達でなくとも気付くだろう。
「…………ぁ、っ……あ」
小さな口から漏れる一音ずつの小声。さらには両手をもじもじとさせながら真っ赤っかに染まった顔。
「え……。ちょっと待って雛っち……。使っちゃった……のかい?」
「ぅ……、うぅ。……そ、そんなこと……そんなこと……」
「つ、使ったのね……。使ったんだ……」
「ぁぁ……ぅ」
ーー雛の一番隠したかった事実が暴かれた瞬間だった。
「ま、まぁ……雛っちも年頃の女の子だし、好きな人の匂いがたっぷり付いたコートだからそんなことをしちゃうのは分からないこともないんだけど……」
「す、少しだけ……だもん……。そ、そんなたくさんはしてないよ!」
「わ、分かったから! ウチは別にそこまで気にしてないから!」
実際、雛のヤってしまったことに同情が出来ないわけではない。雛の立場になったら自分もしてしまうかもしれない……と思う桃華は真っ赤にしている雛のフォローに入る。
これが雛を自爆させる種になるなど、知るはずもなく。
「さ、三回くらいしかしてないんだから……っ! ほ、ほんとだよっ!」
「さっ、さささ三回も!? えっ、三回もしたの!?」
「……ッ! い、一回だけ……だよっ!」
自慰回数の多い少ないは様々……。雛はその三回を少ないと捉えていた。何故なら、コンナコトをしたのはつい最近のこと……。おおよその平均、基準がまだ分かっていないのだから。
「……ひ、雛っちがここまであったとは……。と、とりあえずコレ返しとく……ね」
「え、えと……、つ、付いてないから……っ! つ、付いてないんだからねっ! ほんとだからね!」
「知ってるから! ちょっと雛っちは頭を冷やしなさい!」
「はぅ……」
桃華は自動販売機で買った緑茶を雛のおでこに当てながら、翔のコートを返すのであった。
雛は知らない。……まだ、知らない。
ーー今日、人生で一番の災難が襲ってくることを。
コートを返さなければ……なんて思うことを。
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