第17話 町の外へ
放送はさらにこう続く。
「現在臨時政府は陸海空自衛隊に加え、消防や警察、救急隊、レスキュー、その他多数の機関の生存確認し反撃作戦に出ることを決定しました」
遂に、政府が動く。それだけで今までの実態の無い希望ではなく、確実に進む希望へと繋がった。
「しかし、これには国民の協力が必要です。既に多数の犠牲者を出した状況で人員は圧倒的に不足しています。ですから生存者は最寄りの機能している駐屯地や基地などに集結してください。現在確認が取れてる範囲での機能してる部隊を報告します」
その男の声は次々と駐屯地や部隊の名前を読み上げていく。そして隣町にある駐屯地の名前が読み上げられた。そしてその町まではそう遠くない。それに加えて都心部にある基地も機能しているらしい。
「ここの機材が生きてて助かった」
もし使えなければ放送も聞けなかったかもしれない。さらに運のいいことに雨が降れば音が聞こえにくくなり奴らの活動量は低下し、移動もしやすくなる。それに加えてこの放送局には面白いものがあった。
冬用の大型除雪車だ。これがあればある程度なら奴らをミンチにしながら進むことができる。
たどり着いてから全員と相談し明日、雨が降れば出発することになった。先頭は冬は除雪をやっており、佐々木さんの同級生で猟銃仲間の浜崎さんが運転することになった。その後ろが吉田の爺さんが運転するピックアップトラック、それに続くワゴン車だ。自分たち五人はというと車がオシャカになったため、分散して無理やり乗ることになった。
何はともあれ計画が決定した。そしていつでも出発出来るように車の中で全員寝ることになったが、問題はその夜だった。
自分達が佐々木さんがワゴン車の運転席で眠っているとあの女の子が泣き始めた。
「どうした、大丈夫か? どっか痛いところでもあるのか?」
基本的に子供には優しい佐々木さんが語りかける。
「来るの……」
今まで喋らなかった女の子が初めて言葉を発した。しかしそれは感動的ではなく絶望的なことになった。
佐々木さんが急いでフロントガラスを見ると、奴が一人張り付いていた。暗がりでもわかるほどピッタリと。
「兄貴に吉田の爺さん、出発だ」
トランシーバーに向け小さく呟く。
「何かあったのかよ」
「奴らが周りにいる、合図を出したらエンジンをかけて出発するよ」
トランシーバーからは眠そうな声だった浜崎さんの唾を飲む音が聞こえた。
「まだ雨は降っとらんぞ」
そしてやけに落ち着いた爺さんの声が聞こえる。
「でも囲まれてる」
「待て、まだ気づかれとらん。なら雨を振るのをじっと待ってから一気に出発するぞ。狩猟を思い出せ」
しゃがれた声で笑いながら会話が終わった。肩が強張ってた佐々木さんはゆっくりとシートに張り付き女の子を抱き寄せた。トラックの方は分からないがワゴン車の中だと他には誰も起きていない。
「文紀、雨が降ったら教えてくれ」
そう言って静かに眠りについた。それから一時間ほど待ち続けると目の前にいた奴は車の後ろへと向かっていった。
「雨か」
奴らは細かな音にも反応できるようで少し遠くで雨が降るとそっちの音に反応し少し離れる。まあそうなるとすぐに雨が降るのだが、合図のようなものだ。
「佐々木さん、もうそろ降るよ」
肩を揺さぶり目を開けた時、大粒の雨が一気に降り始めた、周りは一気に轟音で響き渡る。
すぐにトランシーバーを手に取る
「浜崎、吉田の爺さん、いいか」
「ああ、バッチリ」
「今が丁度いいぞ」
そして三台のエンジン音が豪雨に混ざる。
除雪車の大きなライトが前を照らし、ローラーが回転を始める。
「浜崎、奴らをミンチにしてしまえ」
「あいよ」
黒煙を吹きながら細い道に突っ込んでいく。それに続き狭い道を三つの巨体が猛スピードで駆け抜ける。時々除雪車の排泄口から赤色のものが見えるがあそこまで一瞬で、さらにグチャグチャになってると何も感じない。
「そろそろ道に出る、しっかりついてこいよ」
「分かってるよ」
浜崎さんの声に適当に返しながら山道を抜けた。三台はさらにスピードを上げて町の大通りを突っ走る。時々除雪車が車の残骸に引っ掛ける音を響かせようやく町を抜けた。
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