第15話 移住
あれから田中は二日ほどで回復し、警備に当たっている。今ここにいるのは一晴、美香、秋奈、田中、自分の五人の他に、助け出した名無しの女の子に佐々木さん、吉田の爺さん、その他猟友会や住民が十人ほど。
計十五名、そして自分たちは全員による会議の末ここからの移動を決めた。移動先は山の中腹部に位置する放送局。コンクリート製で三階建てのそれなりに大きな建物で周囲に人もいない。
移動するに当たって荷物は佐々木さんのピックアップトラックと自分たちが乗ってきた商用車に全て乗せた。しかし人を運ぶにはどうしても足りないため、佐々木さんと自分でワゴン車を拝借した。途中で佐々木さんが他の車のアラームを作動させ死に目にあったが何とか成功した。
そして今日がその決行日。みんなを乗せたワゴン車は佐々木さんが運転し、荷物を乗せたトラックは吉田さんが運転する。
「いいかみんな、あの車に素早く乗り込むんだ。吉田さんはトラックを頼みます。文紀、お前たちはあの車に乗ってけ、わかったな」
はい。と一言だけ残し他の住人たちはワゴン車に乗り込んだ。それに続き吉田さんもトラックに飛び乗る。
「みんな、行くぞ」
先陣を切り運転席に乗り込む、助手席に秋奈が乗り、後ろには他の三人が乗った。そしてワゴン車のエンジンに合わせキーを回し、トラックについて行くようにアクセルを踏んだ。
それから暫くは順調だった。しかし途中で自分たちの車の前に突然出てきた奴を轢いて、死体がタイヤの間に挟まってしまった。
荷物は他の車両に詰め込んだが、残った物資と自分たちは歩いて行かなければなさそうだ。
「文紀、本当に歩きで大丈夫か?」
「下手に車を動かすと奴らが寄ってきますから、歩きで頑張りますよ」
佐々木さんは不安を浮かべていたがそのまま放送局へと向かった。
「さ、登山の始まりだ」
全員深くため息をついたが、どうしようもない現実を前にタイヤに挟まった死体を睨みつけることしかできなかった。
食料が詰まったリュックを全員背負い、さらにカズはボウガン、自分はコンパウンドボウ、秋奈はシャベルに美香は手斧、田中は鉄パイプ。全員が武器を持っている、それに加えてライトや飲み物など、かなりの重量だ。
しかも今日の天気はあの日と同じく分厚い雲。気分まで落ち込む天気だ。これで雨が降れば体調にも影響する。
まあそこまで遠くもない、雑談でもしながら登ればすぐだろう。なんて考えていた。それから放送局へ繋がる獣道に入った。舗装はされているものの左右から雑草が生え、アスファルトはひび割れている。それに加えて木に遮られているため少し森に入ると夜のように暗い。
「不気味ね……」
美香がそう言って手斧を握り直す。
「でもここさえ抜けたら放送局だからな」
カズはそう言いながらも背負っていたボウガンをゆっくりと前に構えた。
あまりの暗さに先頭の俺と秋奈がライトで前を照らして歩いていた。
ガサガサッ!
道を外れた草の間から何かが動いた。
「まさか奴らか……」
「そんな訳……」
田中が言いかけた時、確かに人影が見えた。
「……ない、なんてことはなかったな」
田中がそう続けて全員武器を構えた。ゆっくり近く奴らに向けてボウガンの矢が発射される。矢は奴の肩を貫き木に刺さる。まるで張り付けされた様な見た目でそれでもこちらに向かって来ようとしていた。
すかさず美香が手斧で頭を割る。そして矢を抜くと死体の服で血を拭ってカズに渡した。
「ほら、まだ来るわよ。カズ、早くして」
「わかってるよ」
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