Eater Of the Dead
@siosio2002
第1話 なんて事ない一日
今にも雨が降りそうな分厚い雲が街を包むある日。スーツを着た男は疲れた顔で会社へ急ぎ、ランドセルを背負った子供達は軽い足取りで学校へと走る。そんな光景を横目に自転車を漕ぎながら高校に向かう。
そんな、いつも通りの朝だった。
今日も
ところが一時限目から担当の先生が来ると「教室から出ないように」と言い残してすぐに自習になってしまった。
「何かあったのかな」
話しかけてきたのは隣の席の
「どうせ喧嘩とかじゃない?」
そんな適当な返事をしてなにも埋めてないプリントから目を逸らした。目にかかる天然パーマの先には、つまらなそうな顔をした美香の横顔がある。
「そうだといいわね」
美香がそう小さく呟きながら長い黒髪をくしゃくしゃにして頭を抱えた。すると後頭部になにが当たった。すぐに振り向くと足元に紙飛行機が落ちていた。そして、その後ろには友人の
「わりぃな」
後頭部に紙飛行機を当てたことを平謝りしてくる。
「おう、賠償金一千京円で許してやるよ」
「せめて現実的な数字で頼むぜ」
笑いながら近づいてくると、空いていた後ろの席に腰を下ろした。
「二人とも呑気なもんね」
呆れながら大きく溜息をつくと、そのまま机に突っ伏した。 随分と気分が落ち込んでいるようだ。
「どうしたんだ、今日は随分と元気がないな」
「ええ、なんか気分が悪くてね」
突っ伏したまま彼女はモゴモゴと喋っている。髪の毛が机の上に広がっているせいで毛玉が話しているみたいだった。
「天気がこれだけ悪けりゃそんなこともあるだろ、元気出せや」
カズがいつも通り、能天気な声でそう言うと隣のクラスの友達に会いに行くと言って教室の出口に向かった。
「全く、先生が居ないからって、その内怒られるわよ」
美香がむくりと起き上がってそう言った直後、廊下の方から悲鳴が聞こえた。扉に一番近かったカズが真っ先に廊下に出る、それに続いて自分と他数人の生徒が廊下に飛び出す。
廊下の真ん中には女子生徒が腰を抜かして震えて居た、その視線の先に広がっていたのはまるで地獄絵図だった。
さっき「教室から出ないように」と言っていた先生が血まみれで立っている。頰には爪で抉られたような跡があり、抑えている腹からは止めどなく血が溢れ出ていた。そして……
「逃げろ」
最後の力を振り絞り掠れた声で言うと、そのまま倒れた。自分とカズの横を走って他の生徒が先生に駆け寄る。その後について行こうとしたが直前で足が止まる。
廊下の曲がり角から、先生の血を追うようなにがゆらりと姿を現わす。ざわついていた廊下が一瞬で静まり返り、カツンという音だけが響き始めた。
目の前にいるのが人間かどうかは分からないが人型であるのは確かだ。瞳孔は開ききり真っ青な顔面には鮮やかな鮮血がこびり付いている、そして口を強く開けたり閉めたりを繰り返し、歯がカツンという音を響かせる。
人型ではある。しかし、それはもうただの化け物だった。
気がつくと思わず足がすくんでいた、そんな時に先生がゆっくりと立ち上がる。そしてその顔は追って来ていた化け物と全く似たようなものになっていた。そして近くにいた生徒の首に噛み付いた。
「逃げるぞ!」
あまりのショックに動けずにいた自分の肩をカズが強くさすって正気に戻す。振り返って逃げようとした時にちょうど美香も教室から顔を出した。
「どうしたの」
言い終わる前に思い切り手を掴んで教室から引っ張り出す。そしてカズが「後ろを見るな」と言って腕を掴んだまま走り階段に向かった。二人の後を追う中後ろを見ると大量の生徒が化け物から流れるように迫って来ていた。
「上に行くぞ!」
二人の背中に叫ぶ、こんな混乱の中でも逃げられそうな場所は的確に覚えていた。普段意味もなく学校の中を散策していたおかげだろうか。
俺の声が聞こえていたようで階段を駆け上り始める。そして三階の廊下に飛び出ることができた。
「この後はどうするんだ」
「第二会議室に向かって! 早く!」
次は自分が先導して走り出す、ついて来てるか後ろを確認するともう一人、おかっぱの女子生徒が走ってきている、クラスメートの
「カズ、美香を連れて先に行っといてくれ」
そう言うとカズは小さく「わかった」と言って走り続けた、化け物は人間の小走りくらいのスピードだったが、秋奈のすぐ後ろにいていた捕まってもおかしくない状態だった。
全力で反対方向に走りだし「足を止めるな!」と秋奈に叫んだ。そして秋奈が通り過ぎた直後、全力疾走の勢いで化け物の腹部に思いっきりタックルを喰らわせた。
偶然にも的確にタックルが入ったようで化け物は少しだけ後ろに吹き飛ぶ。さらに蹴りでも入れようかと思ったが階段をさらに登ってくる音が聞こえ、すぐに会議室に走り出した。
「次はどうするんだ!」
秋奈を連れて会議室に入るとカズが叫ぶ。そんな声に耳を貸してる暇なんかなく、すぐに椅子を持ち上げると窓にぶん投げた。
「早く越えるぞ!」
普通なら窓の外に飛び出たら、そのまま落下死してしまうだろう。しかしここの窓だけは違う。二階から体育館に続く渡り廊下がある、この会議室の窓からはそこに降りることができる。
全員が越えるまで、少しでも時間を稼ぐため、扉を閉めて長机や椅子をできるだけ多く重ねる。そして三人に追いつくように窓を越えて、渡り廊下の上を走り抜け、体育館の屋上に上がるための梯子に手をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます