第2話 生存
全員が梯子を登りきると、その場にへたり込んでしまった。全員の息がようやく整う頃、美香がゆっくりと口を開けた。
「ねぇ、廊下でなにがあったの」
美香はずっと教室にいて、出て来てすぐに連れて逃げた為なにがあったかは分からない。カズが少し間を置いて「落ち着いて聞くんだ」と説明を始めた。美香の顔は聞くにつれて青ざめていくのがわかった。
「その後はどうなったの?」
「さあな、食われたのを見てすぐに逃げてきたから」
そう話していると横で「私見た」と小さな声で秋奈が呟いた。そして震えながら語った内容は想像を絶するものだった。
秋奈は悲鳴が聞こえた直後、気にせずスマホをいじっていた。そして静まり返った後、俺たちが走っていくのを見たらしい、おかしいと思い廊下に顔を出すと大量の生徒が走ってきた。その人混みの隙間には先生に食われた生徒も立ち上がって他に生徒に食らいついていたという。
「なあ、それって……」
思い当たる話が一つだけあった。と言うかそれしかなかった。
「最近ニュースでやってた新しい寄生虫って奴なのか」
「ま、まさか! だってまだ日本には上陸してないって……」
カズの口が止まった。たしかにカズの言う通り日本にはまだ来ていない"事になっていた"はずだった。
しかし、もしも国が混乱を避ける為か、何のためかは分からないが情報を規制していたら? それともただ気づかなかっただけだったのか? こんな状況になってしまっては確かめようのない話だが。
「つまり、そう言う事なんだろう。それより今はこの状況を打開して生きることを考えよう」
ブレザーを脱いで肩に掛けた。そして町を見渡す。たしかに今は信じがたい事態が起きてる、それでも目の前の状況を打開しなければ。
少なくともずっとここにいるわけにはいかない。屋上から脱出するための手段を考えなければ。ここに登るルートがあれば降りる場所もあるはずだ。
確か梯子を降りて、体育館に隣接されている道場の裏側にまた梯子があったはずだ。少し前に外壁を工事してた時に使っているのをみた。今ならそこしかないだろう。そしてこの事をみんなに伝える。
「わかった、じゃあお前は先に行ってくれ、俺が一番後ろからついて行く」
カズが立ち上がると眉毛より少し長い髪の毛を掻き上げて、転がってあった鉄パイプを手に取った。
「いいのか」
「ルートはお前の方がわかってるし、何かあった時の対処もお前より俺の方がいい」
「違いないな、それじゃあ行こうか」
今の自分たちに迷ってる暇はない、他二人の目を見た。少し怯えてるような気もしたが覚悟を決めたようだ。
梯子を降りると扉の前に重ねたゴミ箱が倒れた。するとそれに続き扉を叩く音が徐々に大きくなって行く。急がねばと思い二人が降りてくると、音を出さないように道場の屋根に降りると駆け足で梯子に向かった。
ガシャンと大きく机の崩れは音が響いた。そして振り返ると同時に木製の扉が音を伴って外れるのが見えた。
「走るぞ!」
カズが少し遅れていたが体力の少ない二人を避難させるのが先だ。それにカズは追いつけるはずに違いない。梯子に近くに来ると周りを見渡した。奴らの姿はない。美香に続き秋奈が梯子を下る。
扉の奥からは二、三体の奴らが近づいてきている。カズが鉄パイプでなぎ倒して距離を取るとこちらに走って来る。
「ここだ! 早く!」
カズが追いつかれないほど、距離を取るのを確認すると梯子を滑り降りた。
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