第5話 希望を見出せ

 カズが溜息をつきながら。何も映っていないテレビのチャンネルを変えた。


「うっ……」


 思わず吐き気を催した。秋奈と美香は咄嗟に目を逸らし、カズはその場で動かなくなってしまった。

 ニューススタジオを映していたであろうカメラは倒れ、あの化け物が人間を貪る姿が映されている。きっと放送を止める人もいなくなったのだろう。

 口元を抑えながらすぐにカズからリモコンを取って、電源を押した。

 丁度お腹が空いて来た頃、一気に食欲が削がれてしまった。


「私達、どうなっちゃうんだろうね」


 美香が小さな声でそう言った。「大丈夫」なんてそんな言葉、この状況では意味を成さない。口をついて言葉がこぼれ出た。


「生きるしかないだろ、必死に」


 秋奈が拳に力を込め口を開く。


「そ、そうだよね、生きなきゃ」


 そしてカズもそれに続ける。


「文紀と秋奈の言う通りだ、今は生きることに全力を尽くそう」


「美香だって、まだ死にたくないだろ。俺だって嫌だ、だからみんなで手を取り合って、協力して生きよう。この状況がいつ打開できるなんてわからない、でも今日は、今日だけは生きよう。そうすれば明日がやって来る」


 そう言って美香の背中を軽く叩いた。


「そうね、そうだね……せめて今日は生きる、文紀らしいわね」


 ふふっ、と安心した様子で微笑んだ。

 この町はほとんど壊滅状態だ、希望のカケラもない。だが、明けない夜はない、止まない雨はない、と言われるように、今日を生きて、明日を迎えればきっと何かが変わるはずだ。


 みんなの安心した顔を見渡すと、二階にある部屋に向かった。そして、押入れを開ける。

 そこには集め続けて来た武器が丁寧に並べられている。

 中学生の頃にハマったドラマの影響だった、憧れからお小遣いやお年玉を貯めては通販でリカーブボウやボウガンを何個か買っていた。弓道部に入ったのもその影響だった。

 それを肩に背負い、箱を抱えて居間に降りた。


「随分と物騒なもの背負ってんな」


「まあな、変わった趣味がこんなところで役に立つなんてな」


 箱を開けると中にはナイフやコンロ、ライトなどのキャンプ用品が収まっている。その中に一本のサバイバルナイフを取り出してベルトに括り付ける。


「さあみんな、必要なものを持ってくれ」


 作業用の革手を手に履いて弓を手に取り、矢筒を背負った。

 全員が息を飲む。まず最初に手を動かしたのはカズがボウガンを手に取る。


「鉄パイプよりは全然マシだな」


「そうだな、こっちも和弓よりは使いやすいだろう」


 その時、外で遠くの方からスキール音がした。


「なんだってんだ……」


「二人はここにいて、カズと二人で見て来る」


まず二人の装備を整えると、物音の原因を探るため、玄関の扉を開ける。相変わらず外は静まり返り、今にも雨が降りそうな曇天の空だ。


「吉田さん、何か見えた?」


「いや、何も見えんわ、それに霧も濃くなってる」


 乗って来た車で作った、バリケードから身を乗り出して通りを見渡すと、吉田の爺さんが言った通り、かなりの濃霧だった。


「文紀、何か聞こえないか?」


 カズに言われ耳を澄ますと、遠くからエンジンの唸りが薄っすらと聞こえた。そしてその音は少しずつ大きくなり、こちらに近づいて来る。

 霧の合間からライトの明かりが見えた。固唾を飲んでその明かりに目を凝らす。


「来るぞ!」


 一瞬にしてライトは目前まで来た、そして道に落ちていた死骸に乗り上げる。瞬く間に車体の半分が宙に浮く。そして金属と地面が擦れる音を立てながら、大きく火花を散らせ、数十メートル先まで転がって行った。


「行くのか」


「決まってるだろ! 付いて来い!」


「ったく、だろうと思ったよ、吉田さん! なんかあったら頼みます!」


「わかってるよ」


 吉田さんは呆れたようにライフルを構えた。先に車を越えて、走り出したカズに続いて車に向かう。横転した車の元に着くとカズが車内を確認してる間、周りを警戒する。


「中の人は大丈夫か」


「運転手は即死みたいだが、後ろに子供が乗ってる、ドアを開けるの手伝ってくれ」


 子供と聞きすぐにドアに近づく。そして手を怪我しないようにカズに厚手の軍手を渡し、手を掛けた。


「行くぞ! せーの!」


 二人掛かりでドアを引っ張るが、フレームが歪んでいるのかビクともしない。


「動け! 頼むから動いてくれ!」


「カズ! 危ない!」


 後ろから気配がした、カズを突き飛ばし腰のナイフを抜いて振り返ると四、五体こちらに近づいて来ていた。

 すぐ後ろにいた奴の顔面を斬りつけ、突き飛ばす。


「立ち上がれるか?」


「ああ、何ともない」


 突き飛ばした奴は、ゆっくりと立ち上がると、切り傷を気にも留めない様子でさらに近づいて来る。


「痛覚はないのか!」


 カズがすぐに矢を撃ち、頭蓋骨を貫く。しかし、まだ周りには残っている。それどころかさらに多くの奴らが近づいて来てる。

 しかし、ここで子供を見捨てるわけにはいかない。


「どうする、文紀」


 カズが倒れた死骸から矢を抜き、再装填して後ろに立ち、ボウガンを構える。自分も矢をつがえて身構える。

 爺さんからここは霧のせいで見えていない、ジリジリと詰め寄って来る奴らの前には考える間も無く、すぐに矢を放つ。

 すぐに次の矢をつがえる、相手との距離は一番近くて数メートル。


「死体と殴り合う覚悟はあるか?」

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