第6話 死体と喧嘩
背合わせでボウガンを構えてるカズの落胆した溜息が聞こえた。
「お前ってそんな冗談言える奴だったか?」
そして発射音と弦音が響いた。
筋肉質のカズはまだしも、人生で殴り合いの喧嘩などしたことがない。まさか人生初の喧嘩が乱闘、それも二人対複数、さらに相手が化け物になるとは思っても見なかった。
「血を飲んで感染しないようにな」
「お前も力負けするなよ」
まずは一番近くにいた奴を弓で突いて押し倒す。すぐに弓から手を離して、首を掴み地面に押し付けるとナイフで目を突き抜き、脳に刺す。まずは一体。
カズは首を掴むと力任せに地面に叩きつけ、思い切り頭を踏みつける。グシャッという音と共に地面にドロドロした血液が広がった。
「さあ、次だ、かかって来い」
ドスの効いた低い声が後ろから聞こえた。カズが喧嘩で本気になった時の声だった。一度学校で、カズと不良グループの喧嘩を見たことがある。原因はよく覚えてないが、ガタイのいい男にそれなりに善戦した際、カズが同じ言葉を放っていた。
ナイフを素早く引き抜くと、次の狙いを定めた。シャツに付いた返り血など気にすら間も無く、近くにいた奴の目を狙い一突きする。
狙いが外れナイフは口に入り頰を貫いた。それに反応したのか噛みつかれナイフが抜けなくなる。
「離せクソが!」
普段の自分に見合わない声を出して、そのまま後ろにいた奴ごと地面に押し倒した、他の奴に囲まれる前に髪の毛を掴むと、何度も地面に力一杯叩きつけ、ナイフを抜くと下敷きになっていた方の頭に突き刺す。
随分と戦った気になったが、まだ三体目。これ以上大きな音を出せばさらに近寄って来るだろう。カズもかなりの人数を倒しているようだが、幾ら倒してもキリが無い。
まだ動きが鈍いのが幸いだが、これ以上囲まれたら対処しきれない。後部座席に残された、子供も早く助けなければいけないが、二人だけではどうしようもない。
ふと後ろを振り返ると、一体がすぐ後ろに来ていた。咄嗟にナイフを腹に突き刺したが、止まる気配を見せずに掴みかかって来た。
噛まれるのを防ぐため、両手で首を抑えたが、相手があまりにも重く、そのまま地面に倒れる、
仰向けの状態でなんとか首を抑えているが、いつ体力が尽きるかもわからない。カズも自分で手が一杯なようで、助けれる状況じゃない。
ここまでか、と諦めかけた時。
グチャッ。
何かが首を貫き横に押し退けた。
「文紀、大丈夫だった」
「あ、秋奈……!」
秋奈はすぐに手に持っていた、シャベルを振りかぶった。その瞬間、秋奈の目が変わった。ギラギラと煌めきを宿し、生きる覚悟を決めた目だった。
首から血を流す奴に向かって思い切り振り下ろした。骨が砕ける音と共に、脳みそが地面にブチまけられる。
「二人だけに無理はさせないわ!」
美香も付いて来たようで、その手にはバットが握り閉められていた。そして、カズの後ろにいた奴の頭を叩き割った。
「さあ、次はどれですか」
死骸からナイフを抜き渡してくるとそう言った。今の秋奈は、弓道場で怯えてた時の秋奈じゃない。シャベルを構えた姿に、一片の躊躇も無かった。それは美香も同様だった。
「やるじゃねぇか、美香と文紀はドアを頼む。秋奈は俺と一緒にここを守るぞ」
「ここは任せて」
二人が距離を取る間、美香とドアに近づいた、
「何か工具は持ってるか?」
「ええ、何個か使えそうなものは持って来たわ」
美香の背負っていたバッグを覗くと中にバールが入っていた。
「よくやったぞ、これはいい」
すぐに隙間に入れて、無理やりこじ開けた。思い切り力を入れると何か壊れる音がしてドアが開いた。
しゃがんで車内に入ると、小学校高学年か中学校に上がったばかりくらいの女の子がシートベルトで固定されていた。
すぐにナイフでシートベルトを切ると、女の子を抱えて車外に出た。
「カズ、この子を先に家に連れて帰ってくれ。ここは任せろ」
きっと三人もいれば家に付けるだろう。ここで俺が引き付ければ。無論、死ぬ気は一切ない。
三人が奴らを数人なぎ倒し、走り出すのに合わせ、クラクションを何度か叩くと、弓を持って車の上に上がった。
三人を追いかけようとした奴らも音に釣られてこちらに向かってくる。
そして燃料タンクに矢を突き刺した。
ある程度集まって来た時、車の上から盛大にジャンプして、奴らを飛び越えた。必死に走りながら、ガソリンの付いた矢先にライターで火を付け、振り返り弓を構えた。
逆さまになっている車からはガソリンが漏れ出し、周囲の地面に広がっている。今だ。
燃える矢は、火の尾を引きながら地面に落下した。ガソリンに引火すると瞬く間に燃料タンクに引火し、盛大な火炎と爆風と共に周囲の化け物どもを吹き飛ばす。
それに合わせて、何とかバリケードを飛び越えた。
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