第12話 生き延びた人々
あの日、自分たちは女の子を一人助けた。美香や秋奈、そして他の住民の介護の甲斐あってか、なんとか目を覚ました。
「おはよう、大丈夫?」
小さな女の子は少し周りを見渡すと小さく頷いた。
「お腹は空いてる? こんな物しかないけど食べれる?」
自分の食料を使って作ったお粥だ。少ししかないが腹の足しにはなるだろう。
「少し待っててね」
そう言うと居間に戻った。そこには他の三人に佐々木さんも集まっている。そして自分も同じよう胡座をかいて座る。
「それで、どうする」
カズが小さな声で、女の子に聞こえないように囁く。全員下を向いて何も喋らなかった。佐々木さんすらも少し悲しげな表情を浮かべる雨の当たる窓を見つめていた。
あの女の子は確かに目は覚ました、しかし事故の衝撃か、あの騒動のショックか何かで記憶が飛んでいるようだった。親がどうなったかも、今この国がどう言う状況かもわかっていない。
それをそのまま伝えるのか。それとも何も言わず、この騒動が収束するまで隠し続けるのか。
「今本当のことを言っても逆に混乱するだけだ、せめてこの騒動が落ち着くまで黙っていよう」
もし本当のことを言って、まだ小さなあの子が理解できるとは到底思えない。
何も言わないのを突き通すのは心が痛む、しかしこの状況だ。誰も何も言わないで縦に頭を振った。
それから美香と秋奈にあの子を任せて他の全員であたりを警戒する。町の外れにあるため人こそ少ないが日を重ねるごとに奴らは数を増やしていっている。そんな時、双眼鏡の向こうに奴らとは違う人影が見えた。
「生存者だ……!」
それに気がつくと、すぐにカズを連れて走り出した。二百メートルほど走ると男はこちらを見てそのまま崩れ落ちた。
「大丈夫か!」
カズがすぐに体を抱えると見慣れた顔が見えた。クラスメイトの田中だ。なんとか息はしているがブレザーはボロボロになり、シャツにも血痕がこびり付き、かなり衰弱している。
「やばいな、早く連れて帰ろう」
「わかった。カズ、担げるか?」
「大丈夫、周りは頼んだぞ」
ボウガンを受け取り矢を装填すると顔を見合わせる。軽く頷くと一気に走り出した。
バリケードまで来ると後ろを振り向き、奴らが付いて来てないことを確認して中に入った。
男を地面にそっと寝かせると、カズも息を切らして膝をつく。
頭の裏にブレザーを枕のようにして置くと、何度か体を揺さぶる。少しだけ目を開き意識が戻ったようだ。
「大丈夫か、意識をはっきりしろ」
家にあったスポーツドリンクを手に取るとすぐに田中の元に戻る。
「田中、飲み物だ、飲めるか?」
ペットボトルを受け取ると掠れた声で「ありがとう」とだけ呟いて、一口だけ口を付けた。
「文紀、とりあえず家の中に入れるぞ」
「うん」
二人で両肩を抱えると居間に運び込み横にした。
「腹は減ってないか? なんか欲しいものはあるか?」
「なんでもいい……何か食い物……」
すぐに食糧庫に向かい買えそうなものを探すと保存食のお粥があった。
「これなら食えるか?」
そう言って皿にお粥を流し出して、スプーンを渡すとゆっくりと食べ始めた。
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