第10話 自分の力で

 カズと自分が殺した悪党共から矢を抜くと、携帯が鳴った。


「文紀、今すぐ戻ってきて、早く!」


 美香からの電話だった。その声にはかなりの焦燥が滲み出ている。


「何があった!」


「化け物共が押し寄せてきたのよ、今秋奈と他の人たちで応戦してるの。だから早く来て、私も応戦するから切るわ」


 そう言って電話は切れた。



 文紀家の通りにて。


「美香、連絡は付いた?」


「ええ、大丈夫よ、何もなければすぐにくるはずよ」


 後ろではライフルの発砲音が聞こえる。雨と湿気であまり響かないのが不幸中の幸いだろうか。

 それはともかく、私たちは二人でこのY字路から押し寄せてくる、化け物共を倒さねばならない。

 銃を持った人たちも物資のために街を駆け回ってる。そして数少ない老人たちは大通りから押し寄せてくる奴らを倒している。


 長い髪の毛を後ろで結ぶと、壁に立てかけておいた木刀を手に取る。


「行ける?」


 秋奈がシャベルを構えると目を見つめてそう言った。


「ええ、行けるわ」


 敵は多すぎて全てを排除は出来ない。でも今は少しの間だけ時間を稼げればいい。せめて他にも増援が来るまでの間。


「落ち着いて、震えてるよ?」


 秋奈に言われて気がついた。足が震えて力が入らないでいた。


「美香なら大丈夫。弓道場で箒を手に取ったのも、最初にカズと文紀を助けに行こうって言ったのもあなた。自分を信じて」


 秋奈はそっと背中に手を置いて、さすると前を向いた。


「そうよね、私なら行けるわ」


 自分に言い聞かせると、木刀を前に構える


 一番近くに狙いを定めると頭めがけて一気に振り下ろす。すぐに後ろにいた奴の腹を突いて距離を取ると、横にいた奴の側頭部に叩きつける。


 秋奈はシャベルを使いこなし、まるで作業の様にテンポよく倒していった。まず頭に振り下ろし、次に下から斬り上げ、目を狙って突く。この三つの動きで次々と倒して行く。


 この調子で倒していけば、守りきれる!


 そう思い、次の標的の腹を突いて距離を取ろうとすると、今までとは違う手応えだった。

 それをよく見ると、体格はかなりの巨漢だった。腹は肉厚でどうやっても力じゃ勝てそうにない。


「美香! 離れて!」


 秋奈の一声ですぐに後ろに引き下がる。そして秋奈がジャンプで一気に振り下ろすが、身長も高く、腹を引き裂く事しかできない。

 ギリギリ切ることのできた腹から、内臓が溢れ出てくるが奴らは頭を破壊しなければ動き続ける。


 さっきまでの希望が一瞬にして死への恐怖に変わる。早く、とにかく早く到着を願った。



 何が風を切った。


「祈る暇があるなら、少しでも生きる方法を考えろ」


 後ろを振り向くとカズがボウガンを構えて立っていた。


「文紀は大通りで戦ってる、私たちもここを抑えよう」


 後ろから佐々木さんも近づいて来た。そして銃を構えると銃口から無数の鉄の玉がばら撒かれる。

 一気に何体もの奴らが蜂の巣になる。


「人間様を舐めるな、伊達に自然の中で生き残っちゃいないんだよ」


 そう言って大型ナイフを抜くと稀に突っ込んで行く。


「私たちも続こう」


 秋奈の一言で三人も続き、群れに飛び込んだ。




 Y字路の方はカズと佐々木さんが行った、間に合ってるといいが。そんなことより自分は敵を倒すことに集中しなければ。

 トラックの荷台に上がると弓を構えて引き続けた。何発も何発も、頭に矢が刺さる死体が積み重なっていく。


 そうだ、俺は外さない。


 コンパウンドボウの矢がなくなると和弓を取り出し、引き続けることをやめなかった。

 ここが崩れれば今後の俺たちは無くなったも同然。外すことは許されない。


 少ししてかなり数も減ったが矢が完全に無くなった。あと数体。


「吉田さん、俺が近くに行って倒す。間違っても撃たないでくださいよ」


 今の自分は集中力の海の底。ナイフ一本もあれば十分だ。


 トラックの上から飛び降り、その勢いで頭上から脳を突き刺す。すぐに立ち上がって顔側面の隙間からナイフをねじ込む。そして最後の一体、ナイフの刃に持ち変えると、頭めがけて投げた。

 雨を切り裂き、血飛沫をあげ見事に頭に刺さった。


「ふう……」


 一息ついた瞬間だった。


 背後から掴みかかられた、咄嗟に振り向くと足を滑らせそのまま倒れる。そして奴もすぐに馬乗りになった。


「死ねぇ!」


 ベルトに挟んでおいた警察の拳銃を取り出し側頭部に突きつけ、引き金を引いた。




「文紀! お前大丈夫か!」


 真っ赤になったシャツを見た途端、カズが大声を上げて心配すると同時にボウガンを構える。


「噛まれたわけじゃない、奴の頭を吹き飛ばしたら浴びただけだ」


 そう言ってブレザーを脱いで脇に抱える。ふと上を向くとやっと雨が止んでいた。

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