第23話 刃物の正しい使い方

 隊員の死体と奴らの死体が入り乱れながら転がる建物に着くとすぐに中に入り安全を確認した。


「なあ文紀、ここまで来る途中に奴らを見たか?」


「いや見てません、佐々木さんは?」


「私もだ」


 しかしあの女の子がまたシクシクと泣いている。田中が近づき慰め始めた。その光景を見てフラッシュバックが起こる。

 あの車の中で囲まれた時と一緒だ。佐々木さんはそれに気付いたようですぐに表に出た。


「やっぱりか!」


 周りには既に何十体もの奴らが取り囲んでいた。すぐに散弾銃を構えると二発連続で発射する。そして薬莢が音を立てながら地面に落下する。

 それに続いて浜崎さんのライフル弾が奴らの頭を貫きボルトアクションの音が響きわたる。


「流石にこの数は多過ぎますよ!」


「でもここから逃げるわけにはいかないだろう! 死にたくないなら戦え!」


 そう言って佐々木さんと浜崎さんは小銃を拾い上げ、奴らに向けて連射する。


「ああクソ!」


 あまりの理不尽さにブチギレる。どうしてあんな大軍と戦わなければいけないのか、勝てるわけがないだろう。他の部隊は何をやってるんだ。ふざけやがって。

 表は二人に任せて、囲まれてる為後ろからも迫ってくる奴らに対応を始めた。とはいえ流石に数が多すぎる。


「文紀! 流石に無理だろ!」


 カズも大声でそんなことを言ってくる。

 そんな中秋奈はシャベルをガッチリ握りながら震えている。


「私、これ以上やったら狂ってるよ……」


「秋奈! どんな狂気だろうが狂った状況なそれが普通だ!」


 ナイフだってカッターが無ければカッターの代わりとしても使える。刃物という点では適材適所だ。半分ヤケクソで叫んだだけだが。秋奈はその言葉で目の色を変えシャベルを前に構え走り出した。


「もう! 秋奈ったら!」


 美香が怒りながらもそれに続いた。もう全員突撃状態だ。

 群れに飛び込んだ秋奈は次々と奴らを切り裂いた。シャベルを振り回し奴らから距離を取りながら的確に頭に一撃を食らわせていく。その顔は狂気に満ちた笑顔だった。しかしその狂気が溶け込むほど奴らは大軍だった。

 それに続いて群れに飛び込んだ田中と美香を援護する為、矢を何発も二人で撃ちまくった。

 秋奈が一体相手に乗りかかりなんとも顔面を突き刺しているのが見えた。その瞬間弓を足元に置いてナイフ一本で奴の元に走り出した。

 秋奈に襲いかかろうとした奴に飛び蹴りをして何とか助かったが秋奈は顔がグシャグシャになった死体に向かってまだ刺している。おそらく服からして隊員だったであろう死体から銃剣を抜くと右手に構えて左手にシャベルを持った。


「ねえ文紀、私こんな楽しいの初めて!」


 笑顔でそう言うと奴らの群れの中にまた突撃していった。もはや彼女にとってこの狂った日々が日常と化した。死との恐怖とは既に決別している。

 そんな時、飛び蹴りで倒れた奴が起き上がろうとしたため死体から拳銃を引き抜き二発連続で発砲した。そして予備マガジンをあるだけ拝借して秋奈の援護を始めた。

 しかし倒せどなかなか減らない、そして一体が建物の中に侵入して行った。


「田中! 中に入った奴を頼む!」


「ああ!」


 田中は返事をするとすぐに建物に飛び込んだ。



 建物の中に入ると奴は真っ先に二階の子供達のいる部屋に向かった。その後を後を追うと部屋の前で何度も扉に向かい体当たりを続けていた。


「ぬおぉぉ!」


 そのまま全力疾走で体当たりを食らわせた。その時に腰に付いていた拳銃を奪い頭に鉛弾を叩き込んだ。そして痛む左手を抑えて子供達のいる部屋の扉を開けた。中には涙を必死に堪えた顔の女児たちの前に立ちはだかるように男の子達が並んでいた。その子たちにしゃがんで目線を合わせた。


「お前らよく泣かなかった偉いぞ、それでこそ男だ」


 そう言って頭を撫でた。するとカズと文紀の助けた女の子が胸に抱きついて声を殺しながら泣き始めた。


「ああ怖かったな、大丈夫だ、今お兄ちゃんが奴らを全員倒してきてやる」


 そう言って部屋を出て周りを物色するといいものを見つけた。

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