第27話 死ぬな

「佐々木! 大丈夫か!」


 無線から浜崎さんの声が流れる。


「ああ、なんとかね、まあ車は木っ端微塵になったけど」


 ゆっくりと立ち上がりトラックを見つめた。この騒動が起こる前から乗り続け、状況がこんな風になってからも常に共にし続けてきた相棒的存在の赤いピックアップトラックが今じゃ奴らの炭化した死体と炎に包まれてる。

 だがあの爆発のお陰で一時的に前線が上がった。


「ははっ、それなら良かったぜ」


 それに続いて無線から唸り声とコッキングの音が聞こえた。


「どうやらこっちも来たようだ」


 その声と銃声を最後に無線が途絶える。


「浜崎、浜崎!」


 何度か叫ぶとすぐにビルに向かって走り出した。


「田中は機関銃でみんなの支援を頼む」


 そう吐き捨てると佐々木に続きビルに飛び込む。


「文紀! 浜崎は何階だ!」


「四階です!」


 聞き終えるとすぐに階段を駆け上った。奴らがいると即座に散弾をぶち込み、三階のオフィスに着いた。

 浜崎さんの狙撃ポイントの周辺には奴らがウヨウヨといた。全員でナイフを抜くとそこに飛び込み次々と殲滅していく。すると奥にライフルを頭に振り下ろす浜崎の姿が見えた。


「よかった、来ないかと思ったぞ」


「馬鹿野郎、来る決まってるだろ」


 そう言って拳をぶつけ合う。一通り奴らを倒し安心すると奥から物音が聞こえた。薄暗くなった室内を照らすと大きな影が見える。

 すぐに二発の散弾が撃ち込まれるが一発を頰の肉を持っていき、次は腕を吹き飛ばしただけだ。今までに見たことないほどの巨体は次々と机をなぎ倒しこちらに進んできた。

 考える暇も無く浜崎さんがナイフを抜いて突進した。


「うおぉぉ!」


 浜崎さんより一回り以上も大きい巨体にナイフを突き刺すとそのまま押し返し、窓を突き破って落下した。あまりにも一瞬のことで言葉も出なかったがすぐに下から何かが割れる音が響いた。

 無言で走り出し落ちた地点に向かうとタクシーが潰れその上には突き落とした奴と浜崎がぐったりと倒れていた。


「浜崎!大丈夫か!すぐに運んでやる!」


 浜崎さんは何度呼びかけてもぐったりとしたまま動かなかったが耳を近づけると息はあった。


「なあ頼む! 私を一人にするな……!」


 あの佐々木さんが涙を流し浜崎さんに呼びかける。

 佐々木さんと浜崎さんは幼馴染でその友情は家族よりも硬い。そんな仲間のために必死に叫び続ける。


「佐々木さん、ここは俺たちに任せて浜崎さんを運んでください」


「わかった……」


 涙ぐみながら呟いて近くのワゴン車に乗せた。


「絶対死ぬなよ浜崎!」


 そのまま野戦病院へと向かう車を見送り秋奈と目を合わせる。


「俺たちも戻るか、前線に」


「うん、わかった、行きましょう」


 血が染み込んだナイフを取り出すとそれに合わせて秋奈もシャベルを構えた。日はかなり落ち夜も近い。

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