第20話 掃討戦

 駐屯地がある町の奴らは一掃できた。そして次は周辺の町だ。この町のように爆発物で吹き飛ばせれば手っ取り早いのだが、都合よくそんな沢山の爆発物があるわけではない。

 しかし、音を出せるものなら幾らでもある。そして北国には数多くあり、自分たちも使った車両。そう、除雪車がある。効率と破壊力、どちらも申し分ない。


「こちら第一ミンチ部隊、位置に着きました」


 車内から浜崎さんの声が聞こえる。そして大通りで横隊を組んだ計四台の除雪車がエンジン音を轟かせた。


「了解、これより作戦を開始する」


 隊員の指示と共にゆっくりと進み出す。そしてこれからが自分たちの任務だ。

 残った全員で家庭用の除雪機を走らせ、後ろからついて行き路地に突撃させ隅々まで掃討する。


「よしみんな、行くぞ!」


 横に並んだ仲間たちに声をかける。


「おぉー!」


 全員で声と共に拳を突き上げた。そして全機のエンジンに火を入れ、ギアを前進にしてレバーを握る。後ろには他の生存者たちで結成された部隊が控えている。除雪機が何十台も並ぶ姿は圧巻だ。

 少しずつ進むと肉片の散らばる路地が見えた。一度クラッチを離してカズと共に武器を構え路地を覗く。手前に邪魔な一体が居たためカズのボウガンから矢が放たれ頭を貫いた。


「クリア、早く進め!」


 カズが叫びすぐに除雪機のクラッチを握り路地に横隊を形成した。進行方向を修正しゴムバンドでクラッチレバーを固定し突撃させた。その後ろをミンチ肉が出来上がるのを眺めながら歩き十字路に当たった。商店街だ。


「美香とカズは右を頼む、三人は左をいく」


「わかったわ」


 手斧を腰にぶら下げ、駐屯地から拝借した大きめの斧を手に構えると任せとけと言わんばかりの表情をして走っていった。


「俺たちも行くぞ!」


 田中が鉄バット片手に先陣を切り走り出す。革手を履き直すとコンパウンドボウを握り秋奈とそれに続いた。

 矢を装填し弦を引いて狙いを定め撃つ。この一連の動作で数体倒すと前へ進み田中と秋奈が他を倒し、また自分が矢を撃つ。


「よし、進むぞ!」


 そう言って田中が前進した時だった。横から影が田中にぶつかった。そのまま倒れた田中が左手で顔をガードした。そいつは田中の左手に噛み付いた。

 一瞬状況が理解できなかったが体が勝手に走りコンパウンドボウでそいつの頭に向けフルスイングを食らわせる。当たった衝撃で弓は壊れ滑車などの部品が奴と共に転がっていった。秋奈はシャベルの先端で頭を突き刺しトドメを刺した。振り向くと田中が腕から血を流し下を向いていた。


「田中……」


 もう助からないと思った。田中も奴らになっちまうと。そんな時田中がこちらを睨み叫んだ。


「ナイフだ! ナイフを寄越せ!」


 そしていつも自分がケツポケットに入れていた折りたたみナイフを乱暴に引き抜き、噛まれた部位に刃を当てて制服のネクタイを思い切り噛み締めた。


「ううぅぅ!」


 声にならない叫び声と共に田中の腕の中が切り落とされていった。


「はぁ……はぁ……高橋、包帯をくれ」


「う、うん」


 状況が飲み込めていなかったがすぐに駆け寄って止血を開始した。その間自分は田中の鉄バットを拾い、近づく奴らの頭に振り下ろし、なぎ払い、ひたすら近づけさせないようにした。


「秋奈、終わったか」


「うん、でも私たちは撤退しよう」


 田中に肩に手を回して立ち上がると田中は自分を引っ張り自分の肉を見下ろした。そしてその中から白い何かが一つ蠢いた。そしてそれを思いっきり踏み潰した。


「いいか? 戻ろう」


「あぁ……」


 秋奈が道を開きながら前線基地まで戻った。


「すいません負傷者です!」


 隊員に声をかけ野戦用のベッドに座らせる。


「そいつはどうしたんだ! 噛まれたのか!」


 迷彩服を着た男がものすごい剣幕で田中を見た瞬間叫んだ。


「あぁ、でも寄生虫なんかぶった切ったよ」


 その隊員は一瞬理解出来ないような顔をした。そりゃそうだろう、あまりに例外だ。寄生虫は噛まれた際に侵入するというがその直後に切り取れば大丈夫なのか。それともまだ潜んでいるのか。分からない状況だ。


「とりあえず手錠でそこの柱に捉えとけ」


 その声と共に他の隊員が指示通り手錠を掛けた。そしてこちらを向いてこう言い放った。


「アイツが奴らと同じようになればすぐに殺す、その時はお前らが殺るんだ」


「は、はい!」


 その腹に響くような脅しにも似た声に思わず噛みながら返事をした。一瞬にして緊張のあまり汗だくになる。頭を下げて、再び戦場へと向かった。

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