第8話 無音の中の殺意

 闇の奥で光っていたのは奴らの目だ。もし少しでもくるのが遅ければ、侵入を許していたかもしれない。

 バリケードを越えると、Y字路の手前で懐中電灯を置いた。まだ街灯が付いているのが救いで、人影程度なら認識することが出来る。

 人影は右に三体、左に五体。数は多いが素早く、静かに倒せば行けるはずだ。


「行けるか?」


「私は、文紀に任せる」


 矢を装填して、弓を引いた。まずは左の数を減らしたい。そうすれば接近戦でもまだ戦い易いはずだ。

 矢は風を切り、頭蓋骨が割れる音を響かせた。すぐに次の矢を装填して狙いを定め、矢を放つ。次は肉に刺さる音が聞こえたが、よく見えなかった。しかし影は倒れた。これで両方合わせ六体。


「秋奈、右は頼んだ」


 小さく呟くと、弓を背負い、ナイフを抜く。それぞれ左右に分かれゆっくりと近づいて行った。

 闇に見える奴らの動きはひどく不気味だった。ゆっくりと引き摺るように歩いてくる。


 その時、自分の中に恐怖という感情は不思議と湧かなかった。それ以上に、化け物を殺す、という意識に脳が支配されていた。


 昼間の経験から、奴らは恐らく脳を破壊すれば活動を停止する。しかし脳に達する為には、かなりの力を要する。この短いナイフで即死させる為には目玉を貫通して脳を貫くしかない。

 噛まれずに、素早く倒すことが重要だ。

 左手に矢を持ち、ある程度近づいた時、力強く踏み込んで突き刺す。手を離して、次の奴の目を狙い右手のナイフで一突き。

 すぐに引き抜こうとしたが、鼻に挟まったのか抜けない。しかし最後の奴はすぐそこに居た。

 手を離すと、右手で襟を、左手を袖に手を伸ばして掴んだ。左足から強く踏み込んで、相手を奥に崩す。そして右足を大きく振りかぶって足を崩し、地面に倒した。

 すぐに手を離すと何度も何度も、相手が動かなくなるまで頭を力一杯踏みつけた。

 体育の授業でやった柔道、恐らく人生で唯一役に立った瞬間だった。


 辺りを見渡し他にいないことを確認する。矢を回収しようと、二体の頭から引き抜く。もう一体に近づくと腹に刺さり、前に倒れたのか背中まで貫いていた。

 肩を足で蹴って仰向けにすると、まだ少しだけ動いていた。顎を小さく上下に動かしている。


「文紀、終わったよ」


「ああ、待ってくれ」


 頭を足で抑えて、矢を抜く。そのままトドメを刺すのも良かったが、試したいことがあった。


「シャベルを貸してくれ」


 秋奈は不思議そうな顔をしてシャベルを手渡してきた。

 昼間、腹にナイフを刺した時も奴は死ななかった。そして同じく腹を矢が貫通してもこいつはまだ動いている。しかし、本当に頭以外致命傷になる箇所はないのだろうか。

 恐らく手足は動きは止めれるが、死にはしないだろう。だが、もし呼吸してるのなら肺を潰せば動かなくなるかもしれない。


 シャベルを思い切り、胸に突き刺す。肋骨が折れる音と肉が引き裂かれる音が響くが、まだ動いている。となればやはり心臓だろうか。

 シャベルを引き抜いて、心臓に狙いを定める。一息つき、心臓を貫いた。


「なんでだ……」


 奴はまだ動いていた。やはり頭しか効かないのか。


「もういいよ、文紀。早く戻ろう?」


「ああ、そうだな」


 最後に頭を叩き潰した。懐中電灯とナイフを回収すると、すぐに家に引き返した。


「遅かったな、大丈夫だったか?」


 心配したのか、カズが家から出て向かってきた。


「奴らがいてな、少し時間がかかった」


 そう言い残すと、家の中に入って今に寝転んだ。


「あら、帰ってきたの」


 奥の部屋の扉が開くと、美香が顔を出した。女の子の治療をした後ずっとそばにいたらしい。


「ああ、今日はもう疲れたから寝るよ」


 そして部屋に向かうと再び倒れこみ眠りについた。

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