6月18日 月曜日 セミの抜け殻


 こんばんは。蒼山です。

 本日は松下さんの『在来ヒーローズ』を聴いております。〝辛い世界に足掻いて〟のところ好き。ラストサビ前がカッコいいと無条件でその曲を好きになってしまう病に侵されています。


 今日のテーマは『セミの抜け殻』です。『セミの抜け殻』です。誤字ではありません。酔ってもないです。素面です。ああ待って閉じないで!


 何を言い出すんだコイツは……と思われるかもしれませんが、私は元気です。病んでないです。あるいは生まれたときから今まで、常に病んでいたのかもしれない。やれやれ。私はウェッジウッドのマグカップを床に叩きつけた。


 なぜこのテーマになったのか、詳しく説明します。

 蒼山皆水として小説を書いていることは、何人かの仲の良い友人には言ってあります。


 先週末に、その友人と遊びに行きました。私にも週末に遊んでくれる友人がいるんです。驚きましたか? 驚きましたよね。ふふふふふ。


 まあ、遊ぶといっても安いファミレスで適当に話して、ショッピングして、カフェでまた適当に話して……って感じなんですけどね。カフェで色々と話しているうちに、私の小説の話になったんです。


 すぐにこのエッセイのことを思い出し、ネタが尽きてきた私は「エッセイ書いてるんだけど何かいいテーマない?」と相談しました。思えば、これが間違いだったのです。私はあろうことか、自ら進んで地獄の扉を開いてしまいました。


 友人は数秒悩んだあと「んー、セミの抜け殻!」という反応を寄越しました。

 そうだ! こいつはそういうヤツだった……。私は心の中で頭を抱え、膝から崩れ落ちました。


 友人は、テーマパークのペアチケットが当たる抽選に対して「私がこれを当てればいい思いをするリア充が一組減る」などといった世界一不純な動機で応募する極悪非道の最低な人間だったのです。ちなみに私もその考えに賛同して同じように応募したことは秘密。


 それにしても、セミの抜け殻! なんで⁉ 数秒悩んでいた間、あなたの思考回路はどんな風に機能していたの? まったく、どうかしてるぜ!


 そんなわけで、さすが私の友人といったところでしょうか。

 次会ったとき、セミの抜け殻お前の口に突っ込むからな! おい、見てるか⁉ 覚悟しとけよ!


 はい。以上が、本日のテーマが『セミの抜け殻』という意味不明すぎるワードになった顛末です。


 よし、半分潰したぞ! だからといってあと1000文字もセミの抜け殻について書くことなんてねえよちくしょう!


 セミの抜け殻って集めてたりしました? 私は小学生低学年のときに集めてたような記憶がうっすらとあります。子どもの好奇心ってすごいですよね。どこから湧いてくるんでしょう。今ではもう触ることすらできません。


 でも、あれって集めてどうするんでしょうね。自由研究? それともただ集めてるだけ? もはや集めるのが目的……。人間ってコレクションするのが好きですからね。しかたない。


 でも小学生たち、抜け殻を集めるならセミ本体を集めてほしい。あの道路に落ちてるの、苦手なんですよ。いわゆるセミファイナルっていうんですか? 死んでると思ったらまだ生きてて暴れ出すやつ。あれって結構攻撃範囲が広いじゃないですか。ある程度迂回してもやられる可能性があるんですよね。


 にしてもセミファイナルってネーミング素晴らしいですよね。天才。考えた人にセミの抜け殻あげたい。


 あああああっ! 書くことがマジでないんですけど! セミの抜け殻ってなんだよ! 蒼山も抜け殻になるぞ! よしこれだ。蒼山の抜け殻について書こう! いや無理だよ! なんだよ蒼山の抜け殻って! 私は常に抜け殻じゃ!



 

「はい、これ。プレゼント」

 彼女から渡された蒼山の抜け殻は、あまりにも軽くて驚いた。

 力を入れれば、儚く崩れ去ってしまいそうで――。僕は丁寧に、手のひらで覆って家まで持ち帰った。


 それはずっと、僕の宝物だった。自分の部屋の勉強机。その棚に、箱に入れて飾ってある。一週間に一回は、箱を開けて蒼山の抜け殻を見る。そうすると、なぜか心が落ち着くのだ。


 時は流れ、十年後。僕も彼女も、大学生になっていた。

 小学生の同窓会。彼女は来るだろうか。半分に折り曲げた案内をもう一度見る。

 この十年間、彼女のことが忘れられなかった。


 彼女は、あの頃よりも魅力的な姿で、あの頃と変わらない笑顔でそこにいた。

 僕たちはお互いの十年間を話した。彼女の言葉が、僕の心の隙間を埋めていく。


「ねえ。これ、覚えてる?」

 バッグから箱を取り出して、開けて見せた。中には大切な宝物が入っている。

「えっ。私があげた、蒼山の抜け殻?」


「うん。苦しいときもつらいときも、僕はこの蒼山の抜け殻に励まされて頑張って来れたんだ」

「嬉しい。私ね、ずっと言いたかったことがあるの」

「待って。それ、僕から先に言っていい?」


 口を開いて、その言葉を口にした瞬間――。

 二人の心をつないだ蒼山の抜け殻が、そっと笑ったような気がした。


 ああ、なんていいお話なのでしょう……。

 なんとかやり切ったぞ! もはやセミじゃなくなってるけどいいよね。蒼山なんてセミみたいなもんだもんね! ミーンミーンミーン……。


 はい、おしまい!

 それではおやすみなさい。

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