王からの依頼(2)
「さて、そろそろ本題に入ろうか。ヴィクタル、説明を」
「はっ」
国王の下知を受けたベリアマン大臣が、さらに小姓たちに指示してテーブルの上に地図を広げさせた。ヴェルセン王国を中心とした地図だ。
村と王国の東には、山脈が南北方向に延びている。さらに山脈の向こうには草原が広がっている。王国の南には、岸に沿って細長く伸びたファシャール帝国の領土が描かれている。そして、王国の西側は――空白地帯だった。ここは、王国にとっても帝国にとっても、禁忌とされる場所らしい。過去、西側の場所を目指した指導者もいたと歴史書には書かれているが、なぜか途中で侵攻を断念している。詳細が書かれていないことが、日本にいる異界研究者をいらだたせているらしい。
こうしてみると、王国は北を
「これが我が国の周辺図だ。ご存じかも知れないが、王国の西の端、ここから先は禁忌の地。すなわち、ここにある街が王国の最西端となる」
ベリアマン大臣が、指し棒で地図の一点を指し示した。ちょうど王国と空白地帯の境目にある小さな街だ。
「この街、ルガラントは、南の帝国からの侵入を防ぐ要衝でもある重要な場所で、堅牢な壁に守られた要塞都市でもあるのだが……先日来、一匹の
「幸いに被害は少なかったが、調べてみると周辺にあった村も
あれ? そういえば、
「なぜ
「うむ。古くは戦っていた時代もあったが、賢者様が
ファシャール帝国が、
「しかし、このまま放置しておく訳にもいかん。我々は討伐隊を組織して、
帝国が関与しているかどうかは別にして、街が破壊されてしまえば帝国の侵攻を招きかねない。たとえ賢者が
「だが……」
大臣が言いよどみ、国王を見た。国王は軽く頷き先を促した。大臣は意を決したように、私たちに顔を向けて話し出した。
「現在、帝国の侵攻を防ぐため、国境の街すべての兵員を増強しているところだ。そのため、
強引とも思える徴兵は、やはり帝国との戦争準備のためだったのか。しかし、なぜそんな話を私たちにするの?
「
「大臣、我々からすれば、魔導士百名なら大きな戦力だと思えるのですが」
迫田さんの疑問はもっともだ。魔導士のレベルにもよるだろうが、百人もいれば戦力としては申し分ないだろう。
「そうだな。国同士人同士の戦であればそうであろうよ。しかし、な――
え? それは……なぜ? 思わず呟いた私の言葉に、ヴァレリーズさんが口を開いて答えた。
「人間は――いや、魔法を使える人間は、どんな属性を持っていたとしても、苦手な属性が存在する。それは私やサバス師のように四相の魔導士であっても同じ。一相、二相の魔導士はそれぞれ相克する属性を、三相は残った属性を苦手とする。四相の魔導士は、すべての属性が得意であると同時に、すべての属性を苦手としている。たとえば、火属性魔法を使用している時には、水属性が苦手になる。
ところが
あぁ、だから百人も兵士が必要なのか。いや、大臣の様子を見ると、兵士百人でも勝てないかもしれない、そんな相手なのか。
「襲ってくる
「同じ個体だと、聞いている」
「ならば、罠などを設置しては?」
「うむ。それも考えておる。討伐部隊には、
大臣は、ガバ!とテーブルに突っ伏した。いや、テーブルに頭をこすりつけるように、平身低頭しているのだ。
「おぬしたち、異世界の者たちにも協力してもらいたい! おぬしたちの技術力とやらで、
□□□
「さて、どうしましょう」
国王たちとの面会後、私と迫田さん、巳谷先生、田山三佐は、私の部屋に集まって相談をしていた。会議に参加しなかった詩と階先生も呼んだ。もちろん、結界は設定済みだ。参加していない御厨教授は、部屋にこもりきりで何かやっているらしい。また爆発とか、余計な騒動を起こさないといいけど。
集まった皆には、再確認と問題共有のため、国王からの依頼内容をざっと説明した。
「
詩の感想は、普通の人なら当然だろう。私もそう思う。でも、自衛隊が出動できるのかな? 田山三佐に聞いてみた。
「こうした場合、自衛隊の出動は可能なのでしょうか」
「阿佐見さんと音川さんは、地方自治体の首長と同じ立場ですからね、お二人からの要請であれば、災害派遣で出動することもできなくはないと思いますが」
田山三佐の回答に、迫田さんも頷いている。
「問題は、武器の使用が必須である点です。たとえ相手が、人間ではないとしても武器を使用するためには、越えなければならないハードルがあります。それも数多くの」
そういえば、有名な怪獣特撮映画で、自衛隊が出動できるかどうか議論が起きたっけ。映画では、怪獣相手に自衛隊が武器を使用していたけれど。
「いやいや、そもそも現状村にある装備では、巨大生物に対抗できないでしょう?」
「自衛隊の装備、といっても
「じゃぁ、断っちゃえばいいじゃない」
「う~ん、断るのは簡単なんだけどね。ここで王国からの協力要請を拒否して、もしも討伐部隊が
「好機と見て、帝国の侵攻が始まるでしょうね」
私の不安に、迫田さんが答える。やっぱりそうなるよね。そもそも論で言えば、私たちが協力しても
「医療面での協力だけ、ということではいかんのでしょうかねぇ」
これは巳谷先生。
「医療チームを守るために、武器を使用せざるをえない状況が考えられますからね」
これが帝国相手の戦争協力ということなら、断る理由も考えていたけれど、まさか
結局、その場では結論は出ず、蓬莱村に帰ってから政府と協議しようということになった。
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