異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~
水乃流
プロローグ
ちゅど〜〜ん!!
轟音と共に、衝撃波がプレハブの壁を揺らした。
「も~~っ!」
目指すは村の西、煙が立ち上っているので目印になる。青い空に灰色の煙は目立つ。けが人がいないといいけど。
モーターの音を響かせながら村を走り抜け、二分程で現着した私は、ジャンプするようにスクーターを降りた。スタンドを立てる時間がもったいないので、可哀想だけどスクーターは倒しておく。ごめんね。着地の衝撃で少しずれた眼鏡を片手で直しながら、煙を見上げてぼーっと突っ立ったままの人物に詰め寄る。その先には、小さなクレーターが見えた。煙はかなり薄れている。良かった、延焼したりはしていないようだ。
「
「あ~、
私の怒った声も何処吹く風と、にへらにへらと笑っているこの人は、いわゆる天才と呼ばれる科学者だ。しかし、実態は
「で、今日は何をしてくれちゃったんですかッ!」
「ふむん、
「
一部では、
「だって、思いついちゃったんだからしかたない。まぁ上手く行かなかったけどね」
「プロフェッサー
私は思わず大きなため息をついてしまった。また、始末書を書かなきゃならない。まったく……。
「いつも言っているじゃないですか。実験の前には、必ず申請してくださいって」
「だって、そんなことしたら実験止めさせられるか、延期させられるじゃない?」
「しませんよ、そんなこと……ちゃんとした実験なら」
「あたしは、“ちゃんとした”実験だと思うんだけど、違う意見の人が多くてねぇ」
「いつもすいません、桜さん」
これからのあれこれを思い、絶望感に囚われている私に声をかけたのは、御厨教授の助手である
「ご苦労さん、後で解析するから実験室の中に運んでおいて」
残骸が入ったコンテナボックスを抱えながら、榎田さんは了解ですと答えて、実験室という名のプレハブ小屋へと歩き去った。苦労しているのは私だけじゃないみたい。
「さて、これはどうするかね」
まるで他人事のようにクレーターを眺めて呟きやがりましたよ、この
と、その時、背後から馬の足音が聞こえた。音の聞こえる方に顔を向けると、馬に乗ってこちらへ近づく人影が見えた。馬上の人影は、腰まである長い銀色のストレートヘアを、キラキラと煌めかせている。鋭い眼差しと強く結ばれた唇は、意志の強さを感じさせる。そして、薄緑色に染められた魔導服は、無駄のない引き締まった肉体を包んでいる。
ヴァレリーズさんだ。一応、私の同僚ということになっている。フルネームは、ヴァレリーズ・オールト。
「これはまた、派手にやりましたね? 何度目ですか?
と、彼は馬上から私たちに話かけた。低いバリトンは、癒しではなく突き刺さる痛みを与えるのよ。正論過ぎて、反論の余地もない。
「サクラさんが許可したのですか?」
非難の矛先が、
「いやいやいやいや、そんなわけないでしょう!」
強めに否定しておく。本当に知らなかったのだから。でも、一応これでも責任者という立場だからなー、教授にだけ責任を押しつけるのもなー。
私がそんなことを考えているうちにも、ヴァレリーズさんは馬を降りてクレーターの端に近づく。その惨状を見てあきれたように頭を振ったあと、おもむろに両手を広げ詠唱を始めた。
「母なる大地よ。土の精霊よ。我が祈りに応えその姿を変え給え、
詠唱に応えるように、ヴァレリーズさんの前に輝く魔方陣が浮かび上がる。同じようにクレーターの上にも魔方陣が。するとクレーターの土が、まるで生き物のようにうねうねと盛り上がっていく。あっという間に窪地が平らになった。
「土魔法は苦手なので、後で誰かに仕上げさせなさい」
ヴァレリーズさんはそう言い残すと、再び馬上の人となり颯爽と立ち去っていった。クールなイケメンだわ。私は彼の後ろ姿から視線を外し、さっきまで大きな穴が空いていた場所を見つめた。クレーターの痕跡を示すのは、土の色だけだ。苦手という割に、みごとな土魔法を繰り出した。地面は何もなかったように、真っ平になっている。こちらに来てもう一年になるが、何度見ても本当に魔法って不思議。
――そう、ここは魔法のある世界。
そして私は、
□□□
十二年前、北アメリカとオーストリア、アフリカ、そして日本の四ヵ所に、突如として現れた黒い穴――”
日本政府は異界への進出を決めるが、異界文明とのファーストコンタクトに失敗、惨劇が起きてしまう。それをなんとか収拾したのは、調査団に加わっていた外務省官僚、
そして一年前、三代目の異界調整官として任命されたのが、本編の主人公、
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