新世界より(1)
異界調整官の朝は早い。
陽が昇る前から起きて、寝ぼけ眼で身支度をする。いつまで経っても、朝は苦手だ。
広場の真ん中にある井戸から手こぎポンプで水を汲み上げ、共有の
ここ
いったん屋内に戻り、
朝日が昇りきった頃、コートを着て家を出る。私の住居は震災時にも使われた仮設住宅だが、エアコンも付いているので文句は言えない。「ほっ!」と気合いを入れて、愛用の電動スクーターに乗る。スクーターは官給品なので、大切に使わないとね。
ヘルメットとゴーグルを手に取ると、ヘルメットの内側に張られた管理シールが見える。“文科-異 21の229B”。全部、全角で書かれたところが、ダサい。もう気にしないけど。ヘルメットを被り、ゴーグルを装着する。
まず最初に向かったのは、村の南東にある
設備に問題がないことをざっと確認してから、私は東側にある畑に向かった。村はそんなに広くない。すぐに畑と、畑で働く人たちが見えて来た。
「やぁ、桜ちゃん、おはよう!」
畑にいたのは、御崎先生を初めとする数名。もう作業に入っているようだ。
「先生、お身体の調子はいかがですか?」
尾崎先生は、某農大の教授を務めていた人で、もうご高齢である。比較的若い人でも、
「体調はばっちりだよ、日本にいたときより調子がいいくらいだ」
「それは良かった! 畑の方はどうですか?」
「そろそろ暖かくなってきたから、来週あたり、本格的な土作りに取り掛かるつもりだよ。今年は、
「じゃぁ、夏野菜は食べられるようになるかもですね! 期待していますよ~」
異界での農業を開始したのは、私が赴任する前、今から3年前くらいからだ。最初は地元、つまり
蓬莱村の農業用用水は、村の外を流れる川から水路を引いて使っている。我々は魔法が使えないので。用水路も土属性の魔法じゃなくて、電動の小型重機を使って作り上げたものだ。
今、畑では異界の野菜を、日本の土や異界の土を組み合わせて、実験しながら育てている。魔法は使っていないが、農機具も揃ってきたし、今のところ順調のようだ。すでに動物実験や遺伝子検査などを経て、
これぞ地産地消の精神よね、自給自足にはほど遠いとは言え、食料調達面からも
尾崎先生との挨拶を終え、私は畑を後に北へ向かうことにした。村の北には、酪農用の施設や放牧用の牧草地が広がっている。まだ、雪が残っている場所もあるし、牧草もあまり育っていないので、羊や牛たちは畜舎の中で生活している。ごめんね、もうすぐ広いところに出してあるからね。
広いといっても畜舎と比較しての話で、目の前に鬱蒼とした森が迫っているため、牧草地はそれほど広くはない。対魔物用フェンスが設置されるまでは、放牧していた羊が襲われることもあったらしい。現在は、赤外線センサーと音響センサーなどのセンサー群と魔石による結界があるので安心していられる。魔石とは、魔力を閉じ込めた鉱石……これも不思議なものだ。色やサイズはさまざまで、主に山などから採掘できる。魔石を媒介すれば、私たちのような魔力を使えない人間でも魔法を使うことができるし、魔石に魔力を注ぎ込んで術式を刻み込めば、さまざまな機能を持たせることができる。たとえば、魔石に結界を張るための術式を刻み込めば、悪意ある存在から村を守る結界を作ることができる。
その一方で、魔石は
ここにある魔石の結界は、ヴァレリーズさんに作って貰った。結構大変だったようだけど仕方ない。何しろ、
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