秘すれば花なり
私たちの目の前に、見あげるような
『残弾、ありません!』
『バッテリー残量、二十パーセント』
『フレシェット弾、用意しますか?』
『通用すると思うか? アレに?』
隊員たちの会話がインカムから流れてくる。もう、
しかしまぁ、なんで、こう次から次へと。でも、私は私の仕事をしよう。
「阿佐見さん?!」
「ふえっ?」
突如として、私の身体が光り出した、と思ったら、光る玉の中にいた。何を言っているのかと思うかも知れないが、私も何がなんだか判らない。戸惑っているうちに、玉が私を乗せたまま、ふわりと浮き上がった。そのまま上へと昇っていく。
「うわぁぁぁ」
思わず胸元のペンダントを握りしめた。暖かい。なんだか不安が消えて落ち着けた。そうね、どうにもならないもの。なるようになれ、当たって砕けろ! 砕けたらいろいろ困るけどっ!
私を包み込んだ光球は、
「異なる世界から訪れし娘よ。我が名はゴクエン。
声が聞こえた。
「ゴクエンさん、でいいのかしら? ご丁寧な挨拶、どうも。私は、阿佐見桜です。日本という国の調整官です」
「あぁ、知っているぞ。此度は、我が
なんだか少し引っかかる言い方だな。
「あの、どうしてこんなことに?」
「アレは、力を望み力に飲み込まれてしまった愚かな赤子であった」
あぁ、やっぱり。何かの影響で、自我を失ったということかしら。だったら、助けることができたかも知れない……。ごめんなさい。
「いや、もうああなっては、戻ることはできん。死は自ら招いた運命といえよう。お前たちが謝ることではない。それに、今際の際に再び自分を取り戻せたのは、お前たちのお陰と言えるのだよ」
「あの子の名前は、なんというのですか?」
「真名はあるがそれは家族だけのもの。他者が呼ぶべき名は……ない。そろそろ名付けても良い頃だと思っていたのだがな。そうだ、娘よ。お前が名を与えてはくれぬか?」
「私が?」
「そうだ。我も人間から名をもらった。ゴクエンという名は気に入っておるよ」
名前……せめてもの手向けになるのなら。
「飛翔……ヒショウ、はどうでしょう?」
再び大空を飛んで欲しい。そんな願いを込めて。
「ヒショウか。ふむ。いいだろう」
そうだ、確かめておかなくてはいけない。私は、目の前の
「ところで、さっきのアレ……あの光は、ゴクエンさんですか?」
「そうだ。我のブレスだ。“悪神の傀儡”どもが悪さをしようとしていたのでな。取り憑かれてしまった者には悪いことをしたが、もはや助ける術はなかったのだよ」
つまり、“悪神の傀儡”とやらに取り憑かれたエトナーさんごと、ブレスで消してしまったと。“悪神の傀儡”というのは、あの黒いオーラのことね、たぶん。
「あれは、地上にあってはならぬものなのだ。ブレスで一気になぎ払うなど、お主たち人から見れば乱暴に見えるかも知れないがな」
「いえ、私たちには対処でなかったでしょうから」
「ふふ。それはどうかな? 少なくとも、お前はシルシを持っているではないか」
なんのこと? 私の疑問を置き去りにして会話を続けるゴクエンさん。
「我がもう少し早くこちらに来ることができればよかったのだがな、少々手間取った。もっとあの男の忠告を聞き入れておくべきだった。それを認めるのは業腹だがな」
フッフッフと、ゴクエンさんが笑う。なんだか懐かしそうな表情に見える。いや、
「迷惑を掛けた償いに、幾ばくかの品を残していこう。我には不要のものだが、人間たちは喜ぶであろう」
賠償金、ってことかしら。
「そして、お前にはこれを……受け取るがよい」
「右手を伸ばすが良い」
不思議に思いつつも言われた通りに右手を前に伸ばした。すると、光の玉がするすると私の手に近寄って……指輪になった。右手の薬指に光る指輪には、
「“竜の護り”だ。きっとお前の役に立つだろう」
なんだかよく分からないけれど、「ありがとうございます」と私は頭を下げた。
「古き約束に従ったまで。だがな、これでは不十分かも知れぬがな」
真珠色の瞳を光らせて、
「よいか、小さき娘よ。これからのちもお前やお前の仲間たちに、様々な試練が降りかかるはずだ。だが、お前たちならきっと乗り越えられる。お前たちの世界とこちらの世界の者が力を合わせれば、な」
急に予言めいたことを言い出す
「そしていつか……時が来たら、東を目指せ」
「東?」
「険しき山を越え、海峡を渡れ。その先に、お前は真実を見るだろう」
なにそれ。いきなりファンタジーな展開なんですけど。
「いやぁ、当面は無理かなぁなんて。村の運営もありますし」
「時が来れば、おのずと判る。お前の行動が、この世界を正しき方向へ導くと、我は期待しておるのだよ」
いや、過大評価だよ、
「ゴクエンさん。さっきからすごく気になっているんですけど、あなた、少し仄めかしが多すぎません? 判っているなら、ちゃんと教えてもらえると助かるんですけど」
ヴァッハッハッ、とゴクエンさんが笑う。
「秘すれば花なり、というのだろう?」
え? それって。
「ハッハッハッ。お前との会話は楽しかったが、そろそろ仕舞いにしよう。我は去る。この小さきもの、ヒショウの亡骸は我が持ち帰るぞ……ではな、また会おう」
ゴクエンさんがそういうと、私を包み込んだ光球は、ゆっくりと地上へ戻っていった。
地上に着いた瞬間、光の玉ははじけるように消えた。
「阿佐見さん!」
「桜ちゃん!」
「サクラさん!」
皆が口々に私の名を呼びながら駆け寄ってきた。一陣の風が吹く。
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