ドラゴン襲来(3)
それは、まさしく黒いオーラに包まれた
ズン!
「大地よ、槍となりて彼の者を討ち滅ぼせ!
ヴァレリーズさんの土魔法は、しかし、
「ならば! 風よ水よ、凍てつく氷の刃となりて切り裂け!
再び、ヴァレリーズさんが詠唱とともに魔法を放つ。
「よしっ!
ヴァレリーズさんが叫ぶと、
「おぉ……」
街の方からも歓声が聞こえる。高位の魔導士って、すごいな。そう思ってヴァレリーズさんを振り返ると、そこには全身汗まみれのヴァレリーズさんが、地面に片膝をついていた。
「ヴァレリーズさん!」
賭けよって肩を貸す。息が荒い。魔法は体力を削る。“魔力”などというステータス値は、
四駆のバックドアを開き、積んであった荷物を日野二尉にどけてもらう。空いたスペースにヴァレリーズさんを降ろした。クーラーボックスからペットボトルの水を取りだす。キャップを開けてヴァレリーズさんに手渡すと、彼はそれを一気に飲み干した。
うん、水を飲めるだけの体力があるなら、大丈夫ね。ちょうど、駆けつけて来た巳谷先生にヴァレリーズさんを任せ、私は指揮車へと向かった。
「どうですか?」
「変化なし……これで退治できたのでしょうか?」
「わからない。あ、ダニーさん、どう思いますか?」
ダニーさんは、凍り付いた
「ダニーさん?」
「えっ? あっ、あぁ……なんでしょう?」
「いえ、これで
ダニーさんが首を横に振る。
「
「え?!」
ガアァァッ!
いきなり
「上岡さん! レールガンを!」
『準備ヨシ! いつでもいけます!』
「お願いします!」
「三点五連、てぇっ!」
必殺の高速弾が、再び動き出した
グェェッ!
「レーザーもお願いします!」
「光学砲、どうか?!」
『行けます』
「よし、慎重に狙って、自分たちの判断で撃て」
『了解!』
レーザーは目に見えない。見えるのは、空気中の塵に反射した光だ。そして、黒いオーラに当たったレーザーは、そこだけが白く輝いていた。だが
「レーザーが当たったところに、レールガンを撃ち込めますか?」
「難しいがやってみましょう。聞こえていたな、射撃班?」
『はい。狙ってみます。タイミングを指示願います』
「よし。光学砲、こちらの合図であいつのドテッ腹を狙え」
腹を狙うのは、そこが一番大きいからだ。大抵の生物は腹が弱点だけど、
『了解』
「よし、三……二……一、てっ!」
レーザーとレールガンの弾が、
グギャァァァッ!
『こちらソニック班。加熱警告で、射撃不可。繰り返す、射撃不可! 冷却に三分ください』
ああぁん、もうっ!
「どうしたのですか? は、はやく追撃をっ!」
ダニーさんはインカムを付けていない。レールガンの砲塔が熱くなって撃てないんですよ、と簡単に説明する。
「ふむ、冷やせば良いのですね? そのくらいなら……風よ水よ、冷やせよ冷やせ、
ダニーさんの魔法で、ソニック君の周りに風が渦巻いた。
「おい!
誰かの叫びが聞こえる。前方に目をやると、倒れていた
ゴォォォフゥッ!
地響きにも似た獣のごときうなり声。
「
「マグネスさんっ!」
マグネス隊長さん以下、数名が再び
「レールガン、行けますか?」
『もう少しで使用可能になります!』
「レーザーは?」
「阿佐見さん、一基使用不能です」
上岡一佐の報告に、私はめまいを覚えた。一基でなんとかなるか?
「その、“れーざー”というものを、私に貸してくれないか?」
ふらふらになったヴァレリーズさんが、いきなり現れて無茶な要求をしてきた。何するつもりなんですかっ!
「詳しい説明をしている暇はない。“れーざー”を魔法で増幅して奴にぶつける。そこを“れーるがん”で射貫なさい」
迷っている暇はない。
「レーザーのところまで行きましょう。誰か手伝って!」
「阿佐見さん、危険だ。貴女が行く必要はない」
「いえ、上岡一佐。これは私の仕事です。行きます」
駆け寄ってきた日野二尉とともに、ヴァレリーズさんを抱えるようにして、コンテナを掩体代わりにしているレーザー砲のところまで前進した。すぐ目の前では、
「ここで、いいですか?」
「あぁ。ここから光が出るのだな?」
「はい! ここが引き金です」
ヴァレリーズさんに問いかけられた陸自隊員が答える。うなずくヴァレリーズさん。なんだかいけそうな気がしてきた。
「わかった。サクラさん、貴女の合図で始める。いつでもいいぞ」
「判りました。その前に……ソニック君?」
『こちらソニック号射撃班。冷却完了、射撃可能です』
「いいわ。合図したら全弾ぶちこんじゃってください。それから、チャンネル4を外部スピーカーに繋いでくれる?」
『接続、完了しました!』
「ありがと」
インカムのチャンネルを合わせて、大きく息を吸う。
「ルガラントのみなさぁ~ん! 危険ですから、退避してくださぁぁ~い!」
ソニック君のスピーカーから、私の声が木霊する。私、こんな声だったっけ? 変な声でも届いたようだ。騎士さんたちが
「よ~し! 今! お願いします!」
私の合図でヴァレリーズさんがレーザー砲のトリガーを引くと、
何分経ったのか、いや、何秒経ったのか。レールガンは全弾撃ち尽くし、光の魔法陣はかき消すように消えた。大地の上には
ズゥゥゥンッ!
激しい地響きを立て、砂塵が舞う。私の目の前、ほんの数メートル先に、竜の頭があった。まだ動いているものの、もう起き上がる力はないのだろう。その目は、赤色ではなく、輝くような薄い黄色だった。その目を見た瞬間、そこに知性の光を見た。私は、衝動に駆られて
「桜さん! まだ危険です!」
「阿佐見さん! 戻って!」
後ろから声が聞こえる。何人か私を追いかけてきた。連れ戻そうとした彼、彼女らに手を挙げて制止する。
「大丈夫。確かめないといけないの」
何を? 自分でもよく分からない。けれど、
「
「ヒトカ……」
やはり言葉が通じる。たどたどしいかすれた声だけど、コミュニケーションが取れる。
「なぜ、こんなことを?」
「我ノ本意デハナイ……我ハ……巨大ナチカラニ負ケタノダ」
あの黒いオーラ。何らかの理由で、この
「私たちに、あなたを助けることはできますか?」
周囲にいる人たちがざわついた。相手はさっきまでこちらの命を奪おうとしていたのだぞ、そんな声が聞こえた。
「無理ダ……モハヤ命ノ火ハ燃エ尽キル……因果応報ト言ウノダロウ?」
「そうですか、仕方ありませんね……ならば、聞かせてください。この戦いは約定に反していますか? 我々人間は、あなたたちから報復を受けるのでしょうか?」
「案ズルナ……コレハ我ガ身ノ不始末。約定ニハ触レヌ」
「……安心しました」
「ムシロ我ラノ王ガ……」
その時、太陽が一瞬、陰った。そして。
「グワッ!」
「
見あげると
「邪悪な
竜の背に乗ったエトナーが、誇らしげに勝ち鬨を上げた。
「何をしてるんですか、あなたはっ!」
人が
「何をだと? 街を襲った厄災は、領主自らが打ち払わねばならないのだ!」
「
領主の勝手な言いぐさに、無性に腹が立つ。貴方は何もしていない。隊長さんたちに命をかけさせておいて、こんなことをするなんて許せない。
「ふわはははっ! 今日の私は機嫌が良い。だからお前の不敬なる発言は見逃してやろう。とっとと異世界とやらに戻るがいいっ!」
エトナー領主は、
「皆の者、ご苦労であった。しかし、もう安心だ! この私がいる限り、ルガラントの繁栄は続くのだっ!」
その時だった。
その場にいる全員が見た。エトナーの背後に黒いオーラが出現し、彼を飲み込もうとしたのを。
「ぬ?! なんだ、これは?」
振り払おうとするエトナーだったが、黒いオーラは霧のように彼の身体を包み込んでいく。
「うぐっ! は、放せっ! 誰か! これをなんとかせよ!」
数人の騎士が掛け寄ろうとした時には、すでに彼は黒いオーラに飲み込まれた後だった。
『ウグァァァッグゥゥッ』
オーラの中からくぐもった苦悶の声が聞こえる。思わず、後ろに後ずさりしてしまった。
『ぐがぁっ!』
耳をふさぎたくなるような叫び声が聞こえた直後、黒いオーラが大きさを増し、空中へと飛び出した! 空中で停止した黒いオーラが、黒い光を放つ。
黒い光が消え去った後、そこにはかつて ハーヴィン・エトナーだったものが浮かんでいた。肉体は肥大化し、醜く歪んでいる。その歪んだ身体には、ところどころに鎧の残骸が食い込んでいる。誇らしげにかざしていた剣は、自らの腕と融合しにぶい光を放っている。それの顔は、領主だった男の面影を残しつつも、まるで
ガアァァァァァッ!
もはや
ぴたりと、かつてエトナーだった
世界が光で満たされた。
光が消え去った後、そこには何もなかった。領主の肉体も、
「
いつのまにか私の近くに来ていたダニーさんが呟いた。
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