調整官、王都を目指す(2)
急に決まった王都行きを前に、片付けなければならない山積みの業務を馬車馬のごとく裁いているところに、王都からのお迎え――騎士三名と役人が一名の計四人――がやってきた。王都までの道中を警護し案内する役だという。素直に受け取れば、王からの心遣いだけど、穿った見方をすれば監視役。蓬莱村から王都まで、余計なことをせずに真っ直ぐ来いということなのかも知れない。いずれにせよ、王都までの足が増えたので、こちらとしても楽になった。
王都から来た四人には、出発までとりあえず
村からは、王都までの移動手段として、馬三頭と馬車二台を出すことになっている。農業畜産部門で飼育している羊や山羊、牛は
二台の馬車は、どちらも
車体は、
車輪の中心にはインホイールモーターが入っていて、馬がいなくても自力で走れるらしい。使ったことないけど。こんな技術の塊が盗まれた大問題なので、何重にもセキュリティが掛けられており、蓬莱村の人間でも、許可された人間でなければ利用できない。王都に行って、もし万が一のことが起きたら、これが私たちのセーフティーゾーンになる。援軍は望めないので、気休め程度にしかならないけれど。
□□□
舞踏会開催日の四日前に、私たちは村を出発した。王都からの迎えも含めると結構な大所帯だが、危険の多い
高位の魔導士といえば、今回の王都行きにはヴァレリーズさんも同行する。たしか王都には娘さんも住んでいるはずだから、久しぶりの親子対面をしたりするのかな?
村と王都の間の地図は、まだ完成していない。詩は国交省の人間だから、たぶん
ハイテク馬車には、ジャイロと加速度センサーを組み合わせた慣性測位システムと画像処理による測位システムが搭載されているが、道路事情が悪いため精度には期待できない。また、搭載されているカメラすべてを使って、異界板ストリートビューを作りたいという声もあったらしいが、それも先になりそうだ。
王都へ出発する当日。村人がゲート前に集まり、皆で送り出してくれた。
「上岡一佐! 村を頼みます!」
私の言葉に、上岡一佐は頷き返す。
「上下水道工事の方、よろしくお願いしますねぇ」
これは詩から小早川先生に向けて。先生は、苦笑いしながらも手を振ってくれている。ハイテク馬車には、私と詩、日野二尉、そしてなぜか……。
「なぜ、王都行きに参加することにしたんですか? 御厨教授」
なぜここに
「研究が行き詰まっちゃっているからね、別の視点はないものかと参加することにした」
要するに、気分転換か! よく、小早川先生が許したなー。あ、まさか厄介払いか? 面倒を私に押しつけたのか? 小早川先生の苦笑いは、そんな意味もあったのか? 意趣返しか、あの狸親父!
「王都には、魔石を専門に扱う店とか、魔法の研究者もいるそうじゃないか。是非、この機会に知識を得たいと思ってね」
そうでしょうとも。でも、私には悲惨な未来しか見えないっ! 私はよっぽど悲壮な顔をしていたのだろうか。
「大丈夫ですよ、教授は私が抑えますから」
日野二尉がこっそりと耳元で囁いた。ありがたや。今日からねぇさんと呼ばせてください。
そんな風にトラブルの元凶を抱え込んだ一行が村から出ると、その後ろでフェンスに設けられたゲートがガチャンと音を立てて閉じられた。いろいろと不安もあるけれど、王都を目指してレッツゴー! あ。レッツゴーって、もしかして死語?
□□□
森の中を切り拓いた一本道を、私たちはゆっくりとしたペースで進む。元々は獣道だったところを、王国との講和成立後整備した道だ。といっても、樹木を伐採して根を取り除き平らにした程度で、アスファルトやコンクリートで舗装しているわけではない。王都はもちろん、他の村との交流もそれほど頻繁に行っている分けじゃないから、当然優先順位は低くなる。上岡一佐は、「舗装すれば侵入され易くもなる」と舗装には反対している。それもそうだけど、月一でも荒れ地を進むより舗装した道路を走りたいよねぇ。
今、私たちが進んでいる森は、
馬車の窓から後方を覗いたら、馬に乗った迫田さんが王都から来た騎士と何か話しているところが見えた。迫田さんが馬に乗れることも驚きだが、村ではあんまり外交的なところを見たことがなかったので、
馬車の中では、詩と
「
「ん? あぁ、大気中のサンプル採取だよ。小早川先生から頼まれてね。王都までの間で何回か、サンプルを取るつもりなんだ」
へぇ、人から頼まれたこともきちんとやるんだ。こっちも意外。
「ちょっと
あ、やっぱり。
森の中は
森から離れたところで、一旦、お昼休憩を取る。私たちも馬も、疲れが見え始めていたが、警戒を緩めることなく、半分ずつ交互に休憩した。
「
警戒していた騎士の一人が声を上げた。彼が指さす方向に、
「火よ風よ、清き炎で敵を焼き尽くせ、
詠唱の声と共に、ヴァレリーズさんの手から炎の矢が飛び出す。炎の矢は、うなりを上げて一直線に
グォォーンッ!
雄叫びを上げる、猪の
魔石を取り出した後の死骸は、そのままにしておくと別の
そんなトラブルはあったものの、一行が再び旅へと戻った後は、街道を見つかるまで何も起きなかった。
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